戦隊ヒーローブラックは周りの溺愛に気づかない

瀬川

第1話 美形戦隊イケメンジャー




 怪人の攻撃によって破壊されたビル、立ち上る黒煙、逃げ惑う人々。

 その中心で巨大化した怪人と、同じぐらいの大きさの合体したロボットが向かい合っていた。

 ロボットは度重なる攻撃で傷つき、そして地面に片膝をついている。



「はっはっは!いい加減諦めたらどうなんだ!お前達は俺に適わないんだよ!」



 怪獣は自身の勝利を確信して高笑いをした。

 あと一撃でロボットは完全に動かなくなる。中に乗っているヒーロー達も、たたでは済まない。

 そうなれば、彼の所属している軍の野望がついに達成されるわけだった。

 今まで何度も辛酸を舐めさせられてきたので、次の攻撃は最大火力でしようと、突き出した両手に力を溜めた。



「しねええええええええ!!」



 その攻撃は、まっすぐロボットに向かって放たれた。

 片膝をついたまま避けることが出来ず、ヒーローが敗北するかに思われた。


 しかしロボットの前に立ち塞がった何かが、それを阻止する。



「なにっ!?」



 立ち塞がっただけではない。

 最大火力で放たれたはずの攻撃を、持っていた武器でいとも簡単に弾いてしまった。


 それて別の場所に当たったビームのせいで、砂埃が立ちこめる。

 視界が遮られる中、怪人は一体何者が邪魔をしたのかと犯人を見るために目を凝らした。


 時間が経つにつれ、砂埃はおさまっていく。

 そして間に入った存在の姿も、見えるようになった。



「なっ!?  お前は!?」



 砂埃が無くなり、現れたのは全身真っ黒のオオカミをモチーフにしたようなロボットだった。

 口に剣をくわえていて、どうやらそれを使って攻撃を弾いたらしい。


 そのロボットはヒーローを守るように前に立ち、怪人を鋭い眼差しで睨みつけている。



「……まさかあの噂が本当だったとはな」



 そのロボットに乗っている人物のことを、怪人には心当たりがあった。

 むしろ彼の所属している軍では、上部の間でまことしやかに噂されていた。



「裏切り者があ、将軍様に楯突こうなんて愚かな!」



 罵ってきた言葉を無視して、ヒーローの方に視線を移して頷く。



『助かった! 敵が油断している隙に超合体しよう!』



 ヒーローの一人の声が、スピーカーから聞こえてきたのを合図に、オオカミのロボットは地を蹴り高く飛んだ。

 その体は空中で形を変えて大きな盾に、くわえていた剣は、そのままヒーローのロボットが掴む。



『超・合体!!』


「くそっ!!」



 怪人が気づいた時はすでに手遅れで、慌てて攻撃を撃とうとするが、先程最大出力を出してしまったためにパワーが足りなかった。



『お前がやったことは許されない! くらえ! 美しき剣の舞!!』



 そうしている間に力を取り戻したヒーローが、光をまとった剣で怪人の体を切った。



「ぎゃあああああああ!!」



 時間差で爆発が起き、断末魔の叫びを上げて怪人は倒れる。

 倒れた体は、すぐに光の粒子となり空へと舞い上がって消えた。



『地球の平和は俺達が守る!!』



 ポーズを決めたヒーローに向かって、人々から感謝の声が次々とかけられる。

 ヒーローが剣をひと振りすれば、めちゃめちゃに破壊されていた街が元に戻った。


 こうして地球の平和は、ヒーロー達によって守られた。

 去っていくロボットに、姿が見えなくなるまで手が振られ続けた。




 ◇◇◇




 地球は他の惑星に住む生物にとって、格好の獲物らしい。

 何百年もの歴史の中で、何度も平和を脅かされてきた。

 そのたびに怪人に対抗するため、選ばれたヒーロー達が平和を守ってきた。



 現在、その役目を担っているのは、美形戦隊イケメンジャー。

 歴代最強と言われる能力を持っていて、その戦隊名の通りにメンバー全員の容姿が整っている。

 ただ特出するべき点は、そのメンバー構成にあった。


 元々メンバーの数は四人。

 リーダーのレッド、冷静沈着なブルー、心優しきグリーン、みんなのアイドルピンク。

 最初はこの四人で怪人を倒していたが、ある時突然メンバーが一人増えた。


 人々には隠されているが、その経歴は今までのヒーローの歴史の中では無かったものだった。

 ブラックという名の通り、彼は全身真っ黒のスーツを身にまとい、オオカミをモチーフにしたロボットを操る。


 そんな彼は、敵側の怪人だった。

 もちろんイケメンジャーとは何度も戦っていて、しかも幹部に近い立ち位置だったので彼等を追い詰めていた。


 それなのに何故現在はヒーロー側にいるのかというと、リーダーであるレッドによって救われたかららしい。

 他のメンバーもいないところでのやり取りだったため、何があったのかは二人しか知らない。


 でもその出来事があり、ブラックはレッドのことを慕って、イケメンジャーの一員になった。

 しかしそれは最近の出来事のため、一部の幹部以外には怪人側でもまだ情報が回っていない話である。





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