第二章

第24話。新たなる幕開け。

 「いくら特務兵団がバギンス卿直属の部隊とはいえ、ここでは我々のルールに従ってほしい」


鷲鼻で細い瞳。いかにもお高くとまっている男がモンタニュウスに指を突きつけ、激しく糾弾している。


「私たちはただ施設の使用許可と模擬戦の練習相手をして頂けないかとお願いに来ただけです。ルールも何も、ただ一般的な訓練を行おうとしえいるだけです」

「貴様、よくも上官に口答えできるものだな!いいか。貴様等は人様の所へ土足で上がり込んで来ただけではなく…」

「ドレラ大尉殿。部下の失礼お詫びいたします。ですが彼が言っていることも最もで

すので…」

「これはこれは、ガルー准将。聞こえていましたか、これは失敬失敬。貴殿は部下をもう少しちゃんと躾けた方が宜しいかと。私を通さず、頭越しに許可やその他、書類の決裁などを行ってしまいますと業務上支障が出てしまいますので」


「頭越しとは言われましても、訓練場の使用許可はドレラ大尉殿の管轄外のはず。それに大尉殿の第二一二魔装部隊は魔装工作部隊ですので特務兵団との模擬戦は荷が重いのではありませんか」


「……た、確かに私の部隊と実戦用部隊である特務兵団とでは実力差が少しあるかもしれませんが、まだ一ヶ月ほどしか訓練していない部隊と一年以上訓練を積み重ねている我々とでは連帯面において差が出てくるのでは」


面倒だ。

だがここで上官特権を行使し、ドレラという障害を取り除いた所で新しいのが直ぐにやってくるに違いない。

これみよがしに溜息をつき、器用に眉を片方だけ上げ、腕を組んでみせる。

相手の冷静さを奪ってしまえば、何事も有利に進む。

まずは態度からだ。


「ドレラ大尉。残念がら第二一二魔装部隊と特務兵団では実力差がありすぎる。二一二にとっては良き練習相手かも知れないが、我々にとってはただ動く的と模擬戦をしているに過ぎない。この件については何度も話し合っているが、第二一二と模擬戦をすることは二度とないので、諦めて頂きたい」

「……っ!そ、そこまで仰りますか。では、これにて失礼します。くれぐれも後悔なさいませぬように」


他兵団の下士官に脅しめいた台詞まで吐かれるとは。何でこんな事になってしまったのだろうか。

だが今更なのだ。全てはバギンス閣下との会話から始まったのだから私にどうこうできる問題ではない。


 「と…訳だ…よろ…むよ…あ、ああ。ガルー准将、入り給え」


王国を支える七局の一つである参謀局の本部があるここ、局庁に七つしか無い局長室の前で私は待たされていた。

午前10時までに局庁まで出頭するようにという伝言内容だったので、9時半頃に着いてみると既にバギンスの局長室前には長蛇の列ができていた。

時間を指定されていたにも関わらず、その列の後方へと私は案内され、永遠と思われる時間が経ち要約、順番が回ってきたのだ。


「失礼致します。ガルー・デンギュラントス、ご命令により出頭致しました」

「うむ、ご苦労、ガルー准将。掛けてくれて構わない。少し長い話になりそうだからな」


今更ながらなぜ私はデンギュラントスというファミリーネームではなくガルーという名前と役職で上官たちから呼ばれているのだろうか。普通ならば、デンギュラントス准将或いは役職である特務兵団長と呼べばいいのに、ガルー准将と国王陛下や王女殿下から呼ばれている。親近感を覚えるよりか、若干深読みしすぎて緊張する。

それに長い話し、か。

私的には一秒でも早くこの緊張する時間を終わらせたいものだが、時間がかかるという事はそれなりに重要な案件なんだろう。意識を集中せねば。


「まずは、先日の演習大変見事だった。国王陛下もお褒めになっておられたぞ」

「ありがとうございます。ですがやはり、訓練不足なところは否めず、本領発揮できていない所も事実であります」


結果としては完璧だった。

だが、それは相手の規模や戦力が分かっていたためである。

殆どの場合、敵戦力の正確な情報など与えられるわけがなく、毎秒変化する戦況を独自の判断で乗り越える必要があるのだ。演習で戦艦を落とせたからといって、実際にどうなるかなどやってみないと分からない、というのが正直な感想だ。


「謙遜だな。准将は。それはさておき、残念な事に准将とモンタニュウス少尉が軍大学へ入学できるという話しは無かった事になった。既に決定事項であるが、言いたいことはあるかね」


若干驚き呆れたものの、やはりという感じでしかない。

優秀な魔装兵を前線は常に欲し、不穏な動きをみせているハドマイ帝国を警戒する意味でも、特務兵団の幹部らを軍大学へ行かせる訳にはいかないのだ。


「兵団員が既に決められていた時点で察しておりました。私は軍の人間であり命令が全てであります」


バギンスがニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。


「実に君らしい、答えだ、まさに模範解答と言うべきだな。軍大学への入学が無くなったため、新しい配属命令ある訳だ。准将はザルス帝国領内、ハドマイ帝国領付近で交戦中の友軍を援護しつつ、報告を行ってほしい」

「配属命令…でありますか」


これは非常に、ひっじょうに、困った事態だ。頭を抱えて転げ回り、奇声を上げながら物という物を破壊して回りたい。

バギンス閣下は正気なのだろうか?

特務兵団は創設してまだ一ヶ月も経っていない兵団だ。個々戦力は他の兵団員と比べると平均以上かもしれないが、まだまともにお互いの名前すら覚えていないのに、いきなり前線へ投入されるというのか?一度の実地訓練も無しに?


「閣下、失礼ながら、意見させて頂いてもよろしいでしょうか」

「ほう…いいとも、准将は私の直属の部下。当然、意見する位の権利持ち合わせている」

「閣下が良くご存知の通り、特務兵団が誕生しまだ一ヶ月も経っておりません。いわば、赤子のように無力な兵団です。無論、一人一人の強さが突出している兵団ではありますが、赤ん坊に武器を持たせた所で何の意味もありません」

「続けてくれ」

「ご気分を害されたならば申し訳ありませんが、一般兵の価値を1と致します。すると、一般的な魔装兵なら10、そして特務兵団員ならば20、幹部級ならば40は下らないかと」

「准将にしては傲慢な発言だな。だが、とても興味深い。本当の君の姿が拝めるかもしれないのだから」


うぅ、この方はやはり苦手だ。


「確かに我々が出撃していれば救える生命もあるでしょう。ですが我々が損傷を被れば、近い将来起こりうる可能性が高い大戦争にて実力を発揮できない可能性がございます」

「何が言いたい」

「はっ。数ヶ月以上の兵団強化訓練の許可をお願いします。その間に、全兵団員を近衛兵団精鋭にも勝る程の実力と指揮能力を私自ら叩き込むつもりです。そうすれば、特務兵団は国内、いえ、世界最強の魔装兵集団となるでしょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る