第25話。最強たる。
「最強…か」
マズい、最強は言い過ぎた。
敵戦力が不明な状態で我らが最強などと断言するなど軍人として失格に違いない。
私とした事がこれは完全なる失言だ。何とかして撤回したい所だが、時既に遅しだ。
「そうか、我々は、ハッサー王国は訓練された最強の武装集団を持てる可能性があるのだな。確かに、他列強王国の精鋭部隊をいとも簡単に捻り潰せるような兵団が手に入るかもしれないのに、そのチャンスを捨てるなぞ愚か者のする事だな」
二度目のニヤリ、頂きました。ホント、心臓に悪い、痛すぎる。
「分かった。参謀局局長として、特務兵団に三ヶ月間の強化訓練と一ヶ月間の実地訓練を命ずる。訓練地や詳細な日程については参謀局から後日、追って情報を加える。特務兵団は何時でも飛べるようにしておけ、魔装兵なら鉄道より空を行ったほうが早いだろう」
「はっ!私の我儘を聞いてくださり、ありがとうございます」
三ヶ月も貰えて御の字極まれりだ、その頃には戦争も集結しているだろう。ある程度、特務兵団の有用性を示した後に軍大学への入学を希望すれば通る可能性も高いだろう。
最初は嫌々ながら引き受けた兵団長の座だが、今思えば神からの祝福に違いない。
「准将、貴官が前線で行った最後の任務について、どれ位覚えている」
全くもって予想できていなかった質問だ。
てっきり、これで激励されて会話が終了する流れだと思っていのは私だけだったようだ。
それより、最後の任務。
確か…
「ドーバスラン区より派遣されたドミニク・ウィル・バラハイン大尉、失礼、二階級特進され少佐でした、と共に敵司令部を強襲した作戦でしょうか」
あの後、敵魔装兵と会敵し戦闘になったのだが、あれは任務ではない。
よってドーバスランの戦いにおいて命令された、敵司令室強襲及び破壊命令が最後であったはずだ。
「違う、准将。君はその後に特命を受けていたはずだ」
特命……あ。
「申し訳ございません、その特命について閣下がなぜご存知なのかは分かりかねますが、口止めされており
まして…」
「あれを命じたのは他でもない、この私だ」
は?
「はい?」
「あの任務の実行を作戦局経由を指示たのは私なのだよ。敵侵攻司令室を破壊すると同時に、特殊回復薬を撃ち込む。君が担当したと知った時、これが神の悪戯だと知ったよ。私はね直接、報告を聞く機会を待っていたのだよ。無論、実験結果をまとめた報告書は読んだ、だが生の感想を聞いてみたくな」
あの馬鹿げた…かなりネジの飛んだ…もう良い、あのマトモな人が考えたとは到底思えない実験をまさかバギンス中将閣下が考案していたとは…
「了解致しました。私はモンタニュウス・ヴァイデル少尉に詳細を伝え、現場を破壊後三十分以内に見分致しました。士官学校時代に習いました解剖学基礎知識に基づいて数人分と思われる死体を見ましたが、そもそも人としての原型を留めているものは少なく、生存者は皆無という判断を下し、報告書に記入致しました」
「何か…何かおかしな現象は見なかったかね?」
おかしな、現象。
雷鳴が轟いたり、急速に雨雲が発達したりだろうか。
「いえ、特に特別なことは確認できませんでした。長距離式が一箇所に集中し着弾したため、通常より砂塵が舞っておりましたが…」
「今、なんて?」
「あ、はっ!砂塵が多く舞っておりました。司令室が敷かれていた場所は乾燥しているところではなかったのですが…少し妙だと…」
「准将、私は貴官の事を少し勘違いしていたようだな」
勘違い、どういう意味だろうか。
だがなんだろう、私の勘が囁いている、これ以上追求するなと。
「……これは、運命なのかもしれん。准将、長く引き止めてしまって、すまない。早速、準備に取り掛かってくれ」
そういえば私は特命を引き受けていた。
「バギンス閣下、私がエヴァ王女殿下から受けていた特命はどうしましょうか。状況が混乱していてあまり取り組めていないのですが」
「特命。何のことだね」
あれは、バギンス閣下からの特命ではなかったのか。
「この国に入り込んでいる敵国スパイの掃討作戦であります。小官はバギンス閣下からの命令であると思っていました」
「……あ、ああ、あの事か。すまない、最近年齢のせいか記憶がね。あの作戦は別部隊に任せるから、准将
は安心して訓練に参加してくれ」
「はっ、了解致しました。失礼します」
なんだ…なんだ、なんだ、この、違和感は。
このなんとも言えない気持ち悪さは!
そして特務兵団が送られた場所こそ、首都シュタイツバルトから数百キロ南西へ降りた所にある都市ガレン・シーヴァ区の少し外れにある陸空軍基地だ。およそ一連隊と一魔装連隊が駐屯している中規模程度の軍基地である。主だった用途としては新兵の訓練や新兵器の実験などが行われており、基地単体での戦闘力はほぼ皆無である。よって駐屯兵も教導隊などの一部エリートを除いて新兵や老兵、平均を下回る成績の部隊が多い。そのため特務兵団が訓練入りをした初日から面倒なのに目をつけられる羽目になったという訳だ。
「失礼ですが、准将。ドレラ大尉殿の態度は四階級も上であられる准将に対して目に余るものがあると思われます」
ドレラが去っていった方を睨みながらモンタニュウスが小声で告げる。
「そうは言ってもね、モンタ君。ドレラ大尉は人事局局長であられるシュペルタウス子爵のご子息なんだよ。人事局に目をつけられたら私の出世……とにかく、面倒な事になるだろう。それにシュペルタウス子爵はザルス帝国付近の領主だ。戦場へ行く度に、厄介事に巻き込まれるぐらいなら小者のさえずり程度、無視すれば良い」
聞いた話しによると、ドレラ大尉の上官に対する横暴な態度を注意した者が僻地へと飛ばされたことが何度もあるらしい。そんな訳で上官たちからは野放しにされた状態で、この軍基地に配属されているという訳だ。
「シュペルタウス子爵といえば貴族派閥を取り仕切られている大物ではありませんか。そのご子息がここにいるだなんて。中立的な態度を取っておられるバギンス中将の持ち駒である我々が変な言動を取れば、バギンス中将、ひいては国王陛下にもご迷惑がかかるという訳ですね」
「飲み込みが早くて結構。バギンス中将が王派閥に属しているなどという噂が流れれば折角、国王陛下ご自身で派閥内のバランスを取られたというのに、無駄になってしまうからな。だが無論、もしドレラ大尉の言動が何らかの法に抵触した場合はバギンス閣下に直訴でもするさ」
王派閥と貴族派閥。
見かけ上は互いを尊重し、健全な王国を保つためにあると国民の大多数は考えているに違いない。だが、実際には水面下で熾烈な争いが繰り広げられているのだ。
という風の噂を聞き、絶対に関わらまいと私は決心している。
「さて、少尉、全員を集めてくれ。私が直々に教えてやろう、戦争における合法的な殺人方法をな」
考えていてもしょうがない。
私はバギンス閣下に世界最強の魔装兵団を三ヶ月で一から作ると公言してしまったのだ。
失敗すれば、大きな瑕疵。
だが成功すれば……あぁ、楽しみだ。
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