第23話。戦争の代償。

 世界暦110年冬。

その年の冬はよく冷え込み、兵站への負担が常に限界を超えかけていた事を将校級士官なら誰でもよく覚えてる。攻め入るハッサー王国は勿論のこと、徹底防御を敢行しているザルス帝国ですら補給が間に合わず、砲弾、食料、医薬品の供給が遅れていた。鉄道のダイヤが除雪作業や点検のために狂わされ、不眠不休で大量の人員を双方が使い潰している。もはや、消耗戦に突入している所もあり、戦後の処理を思うだけで首脳陣は頭を抱えているはずだ。


だがいくら消耗戦といえども、ハッサー王国はその強大な軍事力を用い、ザルス帝国兵を圧迫していった。

だが、これをただ傍観していた国は一つもない。ハドマイ帝国は、既に判明している通り裏でザルス帝国と結託している。地図上でザルス帝国のちょうど真上にある、ドバルティン共和国は双方に停戦を促している。だがドバルティン共和国が突きつけてきた講和条件はザルス帝国領の百分一と通常の十分の一にも満たない賠償金である。ザルス帝国が侵略してきた手前、圧倒的に不平等な講和条件をハッサー王国が呑むはずもなく、絶賛、継戦中という訳だ。ハドマイ帝国の真上にあるバーキン連邦国は秘密裏にザルス帝国に対して武器供給を行っている。その中には海を越えた先にある超大国製の最新兵器も混じっており、明らかな戦時国際法違反などだが彼の国を参戦させると、ハッサー王国としても苦境に立たされかねない。海を挟んで向かい側にあるフェルネル皇国とハッサー王国は見かけ上、協定を結んでいる。だが、歴史ある列強国の一つであるフェルネル皇国がいつ協定を反故してもおかしくない情勢状、ハッサー王国としては強襲を避けるため海側にも軍を配置しておく必要がある。


もしもハッサー王国がザルス帝国をその歯牙にかけ、ハドマイ帝国を飲み込むならば、列強諸国が黙っているはずがない。だが、ザルス帝国及びハドマイ帝国を消さねば、こちらが消される。

行くも地獄、戻るも地獄。

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