第15話。団長会議パート2。

「お次は近衛兵団ですかね」


近衛兵団長ダグル・ヴェルバルト少将。

優秀な軍人であり、類なき魔装兵としての才能があるダグル少将。

だが聞くところによると、権力を好まず、上官の命令が気に入らなければ遂行どころか、家から出てこないほどの問題児らしい。


しかし、ダグル少将がまだ一兵卒に過ぎなかった頃、戦艦をたった一人で轟沈させたらしい。そのために大多数の国民から英雄視され、賞賛を受けている。

そんな自由奔放で権力に媚びらないダグルが唯一従うのが国王陛下らしい。

なんでも、幼い時、命を救われたとかなんとか。信憑性のほどは分からないがな。


「近衛兵団としては、特に問題はありません。だろ?」


だろ、と問いかけられた副団長、可哀想に。

顔を引きつらせながら、ダグル少将に何か耳打ちしている。

そりゃ、焦るよね。

王女殿下の前で友人と話しているかのような口調。しかも、断りを入れるでもなくただ副団長に問いかけるのみ。副団長の心中お察しする。


「あー、えー。現在、我々の兵団は各地に散らばっているのですが、います。しかし、近衛兵団は国王陛下、あー、をお守りする兵団です。そこで……可能ならば、先程も言った…申し上げました、とおり、近衛兵団を使わない、で、戦っていただきたい」


副団長の心労も察する。


「わ、分かりました。戦争が終わり次第、近衛兵団を組み込まない作戦を立案しましょう。その時は協力をお願いすると思いますので、宜しくお願いしますね。お次は宮廷兵団のリユー少将ですわね」


宮廷兵団の団長でエヴァ王女とも顔馴染みらしい。

前線に無理に出ることもないし、できるなら私も宮廷兵団に配属されたかった。


「昨日の事件を受けて、我々宮廷兵団の練度不足を認識しました。ですので、宮廷兵団は今日からでも前線に投入させて頂きたく思います。このままでは御身をお守りする所ではなくなってしまいます。昨夜もガルー准将やモンタニュウス少尉がおられなければ、どうなっていた事か」


確かに昨日の事は王宮兵団の失態だろう。

暗殺者の侵入をみすみす王城内へ侵入させただけでなく、暗殺未遂事件まで起こさせたので。本来なら責任者の更迭、関係者らへの厳罰ものだろう。


「しかし、宮廷兵団を前線に投入してしまいますと、本来の任務に差し支えますよね」


エヴァ王女が指摘したとおり、そこが問題なのだ。練度不足のため長期訓練をしようにも、宮廷兵団が常にいつべき場所は王宮、そしてその場所を堅守する事であって、前線などに送られては本末転倒になってしまう。それに、宮廷兵団が王都の警備をすることもあり、そのお陰で戦時中に近衛兵団は自由に動け回れる。


「そこはダグル少将と相談し、人員を交互に前線へ投入する計画案を作成しておきます」

「分かりました。確かに王宮兵団の強化は優先事項ですね。バギンス卿にお伝えしておきます。海兵兵団の方、お願いします」


海兵兵団ガッドス・マキシマス中将。

”鉄壁”の二つ名を持つ男で海軍始まって以来の天才らしい。

戦艦だけでは海上戦は成り立たないと判断したガッドス中将は、早い時期から航空兵器と戦艦を結びつけ、艦隊母艦の開発に尽力した。

ガッドス中将がその二つ名を得たのは、とある海戦において弩級戦艦隊相手に一時間以上も戦艦一隻駆逐艦二隻で領海を守り続けたことから、命名されたとか。

しかし、彼も人間であり古い考えに囚われている部分もある。


「今現在開発中の潜水母艦、そしてとある兵器を一日でも早く開発終了すべく新しい研究施設の建設をお願いしたい」

「とある兵器とは何でしょうか?」


恐らくその”とある兵器”とは国家最上級機密に指定されているはずだ。

こんな所で答えるわけ…


「原子力を使った戦艦、母艦、潜水艦です」


答えるのか!

おいおい、なんか凄そうな感じの奴じゃないか。言ってしまって本当に良いのだろうか。


「原子力…確か、人類が扱うには危険すぎるとされて皇国で研究開発が中止になった代物ですよね。この国で開発が続いていたなんて驚きです」


エヴァ王女は原子力というのが、どういうものか知っているらしい。

士官学校で習った記憶は無いので、近年開発もしくは発見された技術だろうか。

しかし、何だろう、この高揚感。


原子力。

なんて甘美な響きだろうか。

そして同時に底知れぬ恐ろしさを感じる。


「これ以上は申し上げられませんが、戦争の仕組みを一から変えるほどの力を持っている兵器でございます」


仕組みを変える?

規則や状況などを変えるのではなく、仕組みなのか。


「一つ言えることとしましては、この兵器が完成しましたら確実に世界への抑止力となります。我らハッサー王国がこの先一世紀ほど、覇権国家でいられるでしょう」


一世紀。

私達の技術力はそこまで進歩しているのか。


「研究施設の件、分かりましたは。しかし、もし私が許されてこの国を導く立場が与えられた時、私は平和を望みます。現国王陛下も平和主義である事は皆様もご存知でしょう」


平和主義には二つの形がある。


一つは押し付ける平和。

圧倒的国力を元に、他国を平和という鎖で縛り上げ、技術の進歩を著しく遅くさせる。

残念ながら技術の進歩は戦争を通して顕著な発展を遂げる。現に鉄の生成技術を発見した人々は、敵をより効率的に斬り殺す事のみを考えていた。戦争と技術との関係は切っても話せないほど深いものである。


二つ目は共存共栄を目的とする平和。

先進国、発展途上国、低開発国。

この三つでグループ分けを行い、それぞれの階層がお互いに手を取り合い平等な武力を持つ。そして先進国が発展途上国と低開発国に手を差し伸べ、成長を促す。

だが、この二つが先進国に追いつくことはず、ありえない。不可能なのだ。先進国も継続的に進歩し続け、他の先進国と競争し続けている中、彼らが最新技術を発展途上国や低開発国に渡すことなどあり得ない。

結局のところ、完璧な平和などありはしないただの幻想なのだ。

けれど人々はその幻想をひたすらに追い求め続け、余りにも愚直な故に更なる戦争が起きている。平和を求めるのは正しいことだろう。だが、国々によって違う平和の価値観や、自国を優先する、当たり前な精神が亀裂を深めている。


「心得ております。しかしながら、軍備増強は必要不可欠な事であります。これはこの国に住まう人々の安全を保証するためでもありますから」


平和な国でいるためには武力が必要なのだ。

中立国というスタンスを取ったとしても、いつ火の粉が降りかかるかは分からない。

降り掛かってきた火の粉を払う事ができなければ、火事となり、いつかは灰になり、消える。


「自国を優先するのは当然という訳ですね。もちろん、理解していますよ。ですがこの件は非常に繊細ですし、政治的思考が絡み合ってきますので別の機会に取っておきましょう。お次は魔装兵団、お願いします」


何、私の兵団が最後だと。途中ぐらい呼ばれたかったのだが。


「はい。魔装兵団は、強いです」


おお?

昨日から思っているのだが、魔装兵団団長パトリシエ少将は少し抜けている所があるのではないのか。

確定撃墜数121で”フライング・ビー”と呼ばれている天才魔装兵だ。

王国最強であるダグル少将ですら、気を少しでも抜くて、危ういらしい。

だが、なんというか、こう。

幼稚?


「そ、それは大変喜ばしいことですね。でも、できれば私は魔装兵団の現状を知りたいのです」


「現状、ですか。」


会話は成立している。

だが全くもって実がない。


「私たちは裂かれています。確かに私達は、最強の兵団。一人の兵士で中隊。強い魔装兵なら大隊と戦える。私、ダグル少将、ガルー准将。多分、王国最強の三名なら小国の軍隊に匹敵する。言ってしまえば、この三人が揃えばどの国でも滅ぼせる」


ええええええええええ!?

なぜ私を含めた?各団長たちからの探るような視線が痛いのですが。

それに生身の人間がたった三人で滅ぼせるはずが…ないのか、本当に。

私は今まで本気で、全開で戦った事があるだろうか。お世辞にも強い兵士に出会ったことはなく、ハンティング気分で敵を狩り尽くしている私。私と同等、もしくはそれ以上の実力を持っているパトリシエ少将やダグル中将はもっと退屈に違いない。私達が本気を出したならば、どうなるのだろうか。


「それで?」


それで、じゃないですよエヴァ王女。なんか悩んでいたのが馬鹿らしく思えてくる。


「魔装兵の待遇が良いのも理解しています。しかし、私達は機械ではない、です。絶対数が少ない、だから色々な戦場に休みなく派遣されていては、私達は壊れてしまう」


確かに魔装兵に与えられる給与は同じ階級の兵からと比べると倍以上だ。しかし、残念な事にその金を使う暇もなく、各戦地に送られている。

私だって今回の戦い、様々な任務を与えられ、死地に毎日のように送られていた。

優秀だから、頑強だから、ただ単に強いから。そんな理由、けれど軍隊においては至極まっとうな理由。だが、私達は機械ではなく、他と同じで、銃弾で撃たれたら死ぬただの人間だ。


「魔装兵だって他の人間と同じ。ただ皆んなより強い。それは理解している。だから皆、国を守るのは義務と思っています。でも心がある」


義務、か。

魔力が豊富な時点で誰でも魔装兵を目指すだろう。士官学校で魔装兵は選ばれた兵士であるため、国を守護する義務があると教官たから説かれた。特に違和感はなく。

パン屋なら国民のために毎朝パンを焼く。魚屋なら国民のために魚を売る。

一人一人に義務があるのだ。

それは我々職業軍人にも同じことである。その生命ある限り国に尽くし、その生命を燃やす。例えその過程上で死者が出たとしてもだ。


「出撃回数を減らす、という解決策で宜しいからしら」

「……はい」


単に出撃を回数を減らしただけでは、一時的な解決にしかならないだろうが、これ以上引き下がるのは流石にマズイと察したか。


「では、最後に特務兵団のガルー准将」


緊張した時は大きく深呼吸をする。

深呼吸をする。深呼吸をする。深呼吸をする。深呼吸をする。


「わたひ…」


あああああああああああああああああああああああああああああ。

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