第14話。団長会議パート1。
「……という訳でありますから、我々、海兵兵団と致しましては、一刻も早く潜水母艦を完成させ、生産を開始したいのです」
「そんな良くわからない代物を作るより、航空艦隊を増強すべきです。確かに空の王者は魔装兵かもしれないが、気銃乱射の前に生身の人間はいくら持ちこたえられるとお思いか?」
「それは魔装兵団に対する侮辱。あんな鉄の塊の射程範囲に留まる無能は私の兵団にいない。それより、魔装兵の装備を充実させて欲しい。未だに一世代前の装備の兵士も多い。コストがかかるのも…」
「それを言うなら、補給兵団も同じですぞ。歩兵や機械兵団のお下がりだけで、前線への補給には限界がある。いかに優れた軍隊であろうと、補給が途切れたら終わりであろう補給兵団への予算投資は王国の未来への投資ですぞ」
「……」
「私も無口な歩兵兵団団長と同じで、特に必要な者はありませんわ」
「俺も宮廷兵団と同じだ。強いて言うなら、近衛兵抜きで戦争を終わらせてほしい。近衛兵団の主な目的は陛下の守護。宮廷兵団と同じだが、毛色が少し違う。我らに頼らずに戦争の早期終結を俺は望む」
「貴様ッ!戦線が拡大し続けている中、今更そのような…」
「戦線管理を怠ったための産物だ。作戦局からの通達のように敵首都へ一点突破すれば良いものを、わざわざ主戦力へ移動させながらちまちまと敵の部隊を潰し、敵に軍隊を組織し直す時間を与えておきながら…」
「おのれ!それは我ら参謀局への当てつけか!?貴様はいつもそう……」
カオスだ。
それぞれの兵団長たちが、これは好機とばかりにエヴァ王女に直談判。
あれがない、これがない。
そして互いに貶し合いを始める始末。
これが、この国の守護者たる兵団長たちの崇高な会議だと知れば国民はどう思うだろうか。
「お静かに!お静かに願います!王女殿下の御前ですよ!」
エヴァ王女親衛隊隊長ヴァン・キリー。近衛兵団所属の兵士が、この会合の司会を努めているのだが、相手が悪すぎる。先程から神経をこれでもかという程削らされ続けている、この会議で一番苦労している奴だ。だが、額に青筋を浮かべ、怒鳴るギリギリ手前まで声を張り上げている姿が滑稽で、何度笑いを止めようと舌を噛んだことか。
「みなさん」
なんと、ここに来て初めてエヴァ王女が話すとは。
健気な王女様は荒くれ団長たち相手にたじろいてしまっているかと思っていたのだが。
「貴方達が必要としている物は、誰か代表者が一覧表でも作っておきなさい。私が国王陛下に直々、言っておきますから」
くっ、私も何か言っておけば良かった。
支給品だけでも生きてはいけるが、人としてだめになってしまう。私は飲めないが酒類、またタバコ類、更にはトランプなどは戦場において必須と言ってもいいほどである。兵士たちの精神状態を戦場にて保つには娯楽が一番である。我が兵団は設立して間もないので娯楽類が一切ない。だから、装備品より何か娯楽となり得るものが欲しいのだ。
だがしかし、今回は真面目な雰囲気を醸し出して、考課点を上げようとしている。
もどかしいったら、ありゃしない!
「私が皆様と話し合いたいのは、各団の状況です。被害状況とかではなく、何が起きているのかです。王家に上がってくる情報といえば、異常なし、の一点張り。そんな事では、何か非常事態が起きた際に国が根底から崩れてしまいます。私が求めているのは、皆様が今回の戦争について思っていることや、実際に起きたことに対して団員たちから見聞きした事です」
ほう、意外と私が描いていた王女像は偽りかもしれない。
王族や貴族というのは自分の権力が財産を守る強欲の塊という、認識は間違ってはいないだろう。
だが、この王女がその範疇に入っているか、怪しくなってきた。
「王女殿下も仰せられています通り、皆様に集まって頂いたのは、軍部を、ひいてはこの国をより”良く”するためでございます」
ヴァンが続ける。
「皆様、どうかご協力下さい。王国の生ける伝説たる皆様ならばきっと王女殿下が必要としておられることへの答えを持っているでしょう」
ここまで言われては流石に折れない訳にはいかないだろう。
さて、最初に口を開くのは誰だろうか。
「エヴァ王女。我々に本音を話せと仰せられている、という認識でよろしいか」
最年長であるガイツェイ大将が王女に訪ねた。
噂によるとガイツェイ大将はドナート元帥やバギンス閣下と知古にあるそうだ。
エヴァの事を幼い頃から知っていそうだな。
「ええ、そうです。前線で何度も戦った経験のある歩兵兵団長ガイツェイ大将の本音を私は聞きたいです」
今回の戦争で被害が一番大きいのは歩兵兵団だろう。
膠着した前線を維持し、攻めに攻めきれない忌々しい状況で兵の士気を一定以上に保ち続けているガイツェイ大将から学べることは多そうだ。
「では、私から。我ら王国歩兵兵団は数こそ多いものの練度は他の兵団と比べると劣っておるのが現状です。大半が職業軍人でありますが、下士官まで徹底した教育を施せているかどうか、となりますと、答えは否です」
これはこれは。かなり自虐的な事を。歩兵兵団はその規模から管理しきれていないのでは、という反王派閥の貴族から横槍を入れられている今、そんな事を言うなんて。
私には到底、真似出来ないな。年の功という奴だろうか。
「続けて下さい」
「また、歩兵兵団は全ての国境線に展開しており、各地で守備についてます。無論、他兵団の兵団員たちも同じではありますが、我々はその規模が違う。総勢百五十万の兵士を完璧に管理できたならば、それは人知を超えし何かでしょう。私も長年に渡って歩兵兵団に所属していますが、歩兵兵団は増幅し続けています。このままでは指揮系統に亀裂が生じ、近い未来、深刻な問題が生じるでしょう」
まさか、ここまで深刻だなんて誰が予想できただろうか。ガイツェイ大将に一任しておけば何とかなるだろう、と上は考えたに違いない。確かにガイツェイ大将は天才的な戦略でその名を世界中に轟かせている。新しいものを積極に取り入れ、如何に自軍への負担を減らした上で敵への負担を”強要”させるかという考えのもと大軍を運用している。
この国を五十年以上支え続けている大将からの予言的な言には重みがある。
「分かりました。それでは、規模という面では同じ問題を抱える可能性のある、機械兵団の意見をお聞きしても?」
機械兵団団長ベリツァイアン。
若干50歳にして、前線へ出れる最高階級である大将の座につく男。
日々、軍の機械化を訴え続け、革新的なアイデアを取り入れ続けている機械兵団はこの国の最高戦力と言っても過言ではないほどだ。。
陸空海。全てを支配できる軍団、それが機械兵団。
「小官が具申したいことは一つ。予算の増幅です」
お金…か。
ガイツェイ大将のような戦略的な面での要望を期待していた一面、少し裏切られた感じがしないでもない。
「理由をお聞きしても?機械兵団にはある程度、無理した予算が与えられているはずでは?」
エヴァ王女の言うことが最もである。
金食い虫と揶揄される機械兵団だが、その実績が大きいため主だって批判するものは少ない。だが、国民の血税を無駄にするような事が許される訳がない。それを我々、軍人が無駄と認識していなくとも、国民が無駄と思ってしまうと取り返しのつかない事になる。
「お考え下さい。戦争の歴史は石の剣から青銅製のものに、それから鉄へ。最強と思われていた騎馬隊はマスケット銃の登場により姿を消します。そのマスケット銃ですらピストルには勝てない。何が申したいかと言いますと、新しい、そして強い兵器を持っている国が常い時代を、世界を支配してきました。そして強力な兵器は他国への抑止力にもなる。勿論、戦争のない、武力的や思想的などの衝突の無い世の中が理想でしょう。しかし、それは夢物語だ。時代の先を行く兵器を作れれば、未来ある若者が一粒の鉄の塊に命を奪われることもうなくなるのです」
これを公式の場で言っていたら大問題になっていただろう。戦争を起こさせないために新兵器を製造するといって、何も起こらなかった例がない。
けれど話の内容から察するに、豪胆な性格をしているかと思ったら、意外と繊細の神経を持っているらしい。
前線を知っている将官はやはり一味違うな。
まぁ、ここにいる面々の中で前線を知らないのはエヴァ王女とヴァンだけだろう。
「分かりました。コルネリオ財務局長にお願いしておきます。次は補給兵団でいいかしら」
「はい」
補給兵団団長キューベル。
どんな最前線ですら絶対に物資を届ける事で知られている方だ。
鉄道網を張り巡らせて物資の運搬をするべきと提案していた作戦局に対して、参謀局所属補給兵団副団長をしていた当時のキューベルは強靭に反対した。
曰く、鉄道などレールを破壊されれば何もできない。確か大量の物資を低コストで運搬できるかもしれないがリスクが高いと。
そこで彼は車両の開発を急がせ、物資をより効率的かつ割安で運搬できる車両を作ってみせたのだ。キューベルのお陰により前線の兵士たちは物資不足に悩まずに済んでいる。
「私も長らく補給兵団に所属しておりますので、補給兵団の事ならば何でも分かります。そんな私がお願いしたいのは補給兵団員に対する戦闘訓練です」
ん?
補給兵団員も緊急時は歩兵兵団と一緒に戦うのではないのか。
「それはどういう意味でしょうか?まさか、日々の訓練を怠っていると?」
あー、エヴァ王女が不審がってる。
なんせ、キューベル大将の発言は自分の職務怠慢を暴露したようなものだからな。
「無論、日々の訓練は行っております。しかし、実戦経験のある者が少なすぎるのが現実です。ガイツェイ大将が優秀うすぎるあまり、我々の出番がないのです」
なるほど。
思わず、ガイツェイ大将も苦笑している。
物資。
弾薬が無くては敵を殺せない。食料が無くては味方が死ぬ。
その他、様々な物が戦場では必要とされている。
そんな大切な物資を送り届ける補給兵団が動員されるのは、よほど危機的状況に陥っている場合のみとなる。
それを状況をガイツェイ大将が許すはずもない。
「それは…補給兵員と歩兵兵員を体験のような形で交換するのはどうですか。期間は限定させますし、損害に関しては後々決める必要がありますが」
一般人から見れば、ある意味効率的と捕らわれる提案かもしれない。
しかし、それは大きな間違いだ。
「エヴァ王女、お言葉ならがそれは多大な危険が伴います」
「なぜですか?」
指摘され、それを何故かと問う。
もしかしたら、この王女はこの展開を読んでいるのかもしれない。
完璧には分かっていないにせよ、何かしら理解しているはずだ。
「兵士の士気は色々な事に左右されますが、戦友というのが一番大きいです。それを誰がいて何をするかもわからない場所にいきなり置かれてみて下さい。その当人だけでなく、それに関わる兵士たちにも少なからず影響を与えるはずです。それに、交換というのは容易いですが実行するには、少なくとも二つの法律を改正する必要が出てきます」
キューベル大将殿が言ったとおりである。
兵団内での転移は、兵士間の腐敗を無くすために、高官になればなるほど頻繁に行われる。流石に兵団長、副兵団長レベルにもなれば転移は無い。
けれどそれは悪魔でも兵団内の話であって、他兵団へ移動はほぼ皆無である。
「分かりました。それについては後程、話し合うとしましょう」
こうして会議は更に混走を深めていくのであった。
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