第13話。買い物とその後。

 まさか、こんな事になるとは。

私が知っている買い物とは、


一つ、目標を定める。

二つ、必要な情報を収集する。

三つ、現地にて速やかに作戦を遂行する。


なのだ。

しかし……


「ガルーちゃん!これも着てみなさいよ。絶対似合うから」

「はぁ」


最初は反発していた。

だが今となって、それが虚しい努力であることを悟った。


「あ、待って。これの方が似合う。あー、こっちの青色も捨てがたい。よし、全部着てみよう」


私は着せ替え人形と化していた。

買い物を始めたのが午前九時だ。

私の予想では午前十時には全てが終わり、本屋にでも行って軍大学用の参考者を買えればと思っていたのだが。


「うん、やっぱり青ね。これ下さーい!」


お腹が空いたな。


「はいよー。お客さん、お金は大丈夫なんかい?」

「大丈夫大丈夫。私、お金持ちだから」


確かこれで三着目だ。


二時間で三着。

あと、二時間少しで一週間分の衣服を買える計算か。

目眩がする。


「エ、えーゔぁーゔぃーさm…さん。そろそろお昼時ですので、どこかで昼食を取りませんか?」


え、もうそんな時間。

じゃないですよ、あなたの時間管理能力はどうなっているのですか?

切に訴えたい。


「じゃあ、近くに美味しいレストランがあるからそこで食べましょう」


すると、エヴァがお財布を取り出した。


「私の衣服ですのでエーヴィーさ…さんにお支払して貰う訳にはいきません」


確かに王女に比べたら私の私財など取るに足らないものだろう。

だが、ここで払われてしまっては何時、あの時払ってあげたのに〜、と言われてしまう。


「みんな、私が貧乏人だって言いたいの?私はあの王宮…」


まてーい!ステーイ!

それ隠してたのではないのか?


「分かりました!お願いします!ただし、お昼ごはんは私が払いますよ。と・も・だ・ちなのですから」


友達というフレーズを少し強調しただけで、エヴァ王女の機嫌が立所に良くなる。

意外とちょろいのか?外面完璧王女だと思っていただけに意外だ。



 結局、昼食はまぁまぁ値段の張る所に連れて行かれた。

人にいわゆる奢られるというシチュエーションを体験してみたかったらしく、とても上機嫌だった。結局、昼食中は王女が一方的に話し続け終了。


午後のためにコッソリ戻らなければならないから、と言い残し王女は去っていった。

しょうがなく、残りの四着を適当に見繕ってもらい、なんとか時間通りに王宮前の噴水にたどり着くことができた。


「待たせたな」


既にモンタニュウスが噴水前にいたので謝罪しておく。


「いえいえ」


ここまでテンプレート。


「宮廷第八大会議室で緊急兵団長会合を行うらしい。門前まで行けば案内人がいるそうだ」


先程、王国王政局から会合の場所を指定する連絡が届いた。


「第八でありますか。会議室には行ったことがありませんので、どういった場所なのか気になりますね。噂では黄金製のシャンデリアに純銀製の蝋燭立てがあり、暖炉にくべられた薪木が時より弾けている、そんな中で王国の叡智あるものたちが集合し、今後について語り合うのが王宮会議室の使い方だと知人が申しておりました」


なぜこいつは、こうも楽観的なんだろう。

名目は兵団長達と王女殿下の情報を共有し、意識を擦り合わせる会合だ。

だが、何事にも裏は必ずある。

出世コースを外れたくない私にとって、兵団長となっての初めての試練かもしれぬ。

任命されてからほんの数日しか経っていないのだがな。


「歩きながら、我ら特務兵団についての認識を共通化しようじゃないか」


特務兵団よりか、北部特務兵団が創設されてから数日。まさかの兵団長会合である。

これといった戦果は愚か、まだ兵団員たちと会ってすらいない。こんな状況で報告できる事もあるはずがないだろう。


「まず、特務兵団とはどういう目的で設立されたと貴官は考える。少尉、答えていいぞ」


よって、現段階で兵団員の人数は二人とカウントしよう。

もし何か報告せよと言われたら、兵団員二名しかいないのに何を報告できますか!と啖呵を切ればいい。

階級は違えど、立場は同じだ。

ある程度なら許されるに違いない。そう願いたい、心の奥底から。


「そうですね。特務という位ですから、何か特別な任務を課せられる部隊だと愚考します」


失念していた。

こいつの頭の中には何も詰まっていないのだった。


「そんな事は生まれたての赤子ですら分かる。私が聞いているのは、目的だよ」

「目的?」


これぞ、頭痛が痛いというやつだろう。


「少尉。貴官の脳内には何が詰まっているのだ。まぁ、いい。これは私見に過ぎないのだが、恐らく特務兵団はバギンス閣下、言ってしまえば国王陛下が直接動かせる部隊を欲して設立されたと思われる」


モンタの上に大きな疑問符が浮かぶの目に見えるよ。


「いいか。この国は王政だ。だがそれと同時に、100年と少し前まで違う国々だったんだぞ。いくら各国の長たちから推されて国王になられたとはいえ、常にバランスを保つ必要があるに違いない。そして、国を担っている七局長たちもいる。それに加えて陸海と空軍は違う局に属しているという面倒さ。バギンス閣下が軍内部において実権を握っているとは言え、参謀局長であるバギンス閣下が空軍の指揮権を持つ作戦局に直接意見するのは難しい」


謎は深まるばかり。


「例えば機械兵団は戦車や戦艦を所有している。だが同時に戦闘機や爆撃機なども持っている。この場合は、参謀局と作戦局。どちらの管轄だと思う?」

「分かりません」

「正解は作戦局だ。陸海軍の指揮権を所有している参謀局に対して魔装兵団のみしか指揮できない作戦局と公平にしたのだろう。軍務を複雑にさせている原因の一つなんだがな。だが、そのせいと言ってはなんだが、参謀局はお空を自由に散歩させられる部隊を所有していないのだ」


権力の一極集中は権力者が腐敗すると、全てに感染する。

それを恐れた上層部の行動だろうが、指揮系統の曖昧さが現在、王国軍部内では大きな問題となっている。


「今回のザルス帝国との戦争はもっと早い段階で、一ヶ月も関わらず終わらせられただろう。だが、現実は違った。我々の部隊が無理をして、敵本陣を叩いても、戦争はまだ続いている。そろそろ三ヶ月だぞ。国力差は圧倒的に我々に利がある。だが未だに前線では銃弾が行き交い、兵が死んでいるのだぞ。何かが機能していない証拠だろう」


ザルス帝国がいくら徹底抗戦の構えをみせ、戦略的撤退をしていたとしても戦争の早期集結は可能であった。魔装兵団、機械兵団のみによる電撃戦を敢行していれば、今頃になってハドマイ帝国の不穏な動きや、その他大陸列強国たちの行動を邪推する必要性もなかった。


だが、思っている事を口にするのにはあまり宜しくない状況だ。私たちは既に宮殿の最奥門を過ぎている。迂闊な事を口にして、処罰を受けるのは甚だ遺憾である。


「理解しました。今後、参謀局と作戦局、ひいては局全体がどうなるか分からないものの、空を散歩したい参謀局のために設立された兵団が、特務兵団なのですね」


「ああ、そうだ。それと、国王陛下自ら指揮できる兵団という事を忘れるな」


全く、無駄な時間だ。

知力の低い人間と話していると、こっちまでお馬鹿な気がしてきた。

会合では兵団長や副兵団長たちと話すことになるというのに……こいつが私の付き人とは。

お先真っ暗だな。

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