第11話。大学と休暇。
「えぇ、軍大学!しかも国王陛下から直接言われた!?」
翌日早朝、モンタニュウスを兵舎管理員に叩き起こしてもらい宮殿内の高級カフェに入って事情を説明した。
「ちっ、声が大きいぞ…ここの珈琲一杯分の金で大衆カフェならケーキ付きの紅茶が飲めるぞ…おいおい、ケーキの値段はご表記かね。二食分の値段もするじゃないか…で、いいかよく聞け。軍大学は四年で要約終えられるような鬼畜大学だ。それをたった二年で終えるなんて正気の沙汰じゃないぞ。君には正直無理だと思う」
ブラックコーヒーは苦いな、やはり。
ミルクと砂糖が欲しい。
「あ、あ、安心して下さい…か、必ず食いついてみせます。是非、自分にも機会を与えてほしいです」
この押し問答を続けること一時間弱。
珈琲がすっかり冷めきってしまった。幸いなことに三食付きの部屋が充てがわれているのでお財布を心配する必要はない。
そして個人的には、別にモンタをセットにして大学へ行く必要など皆無だ。
「私は君の事を思って言っているのだ。大学を落第することになれば、将来へ大きなマイナスになってしまう。君の実力ならいずれ奨学金制度を使って軍大学へ行けるだろう。私は一銭も学費が無いからこのチャンスに飛びつくだけだ。君は焦ることはないんだ」
モンタの顔がムッとなる。
可愛いな。
「准将!私だけ仲間はずれにするんですか?スーザン、ウワン、あとルーカスすら大学へ行けるのに?」
ん?私はなんて言った?可愛いと言ったのか。
私の人生ほど可愛いという物と無縁なものはないだろう。
世間一般がいう可愛い容姿をしている訳でもない。可愛い服装には興味すら湧かない。服は実用性、通気性、吸引性などの機能重視で良いのだ。
そんな私が…奴を可愛いなどと思ったのか。
死にたい。今すぐ自分の脳天を魔装拳銃で撃ち抜き、脳漿をそこらじゅうにぶちまけて死にたい!誰か、私に、チャンスを!
「……ああ、すまん。誰だって?」
「スーザン・バイエル。ウワン・ケルカス。ルーカス・グーグリエルモですよ!かつて私が近衛兵団にいたときの仲間たちです!それなのに私だけ編入できないなんて、あんまりですよ」
……ん?
「で、私と何の関係があるんだ?お前の仲間が大学に編入できたなんて喜ばしいことじゃないか。それとも嫉妬しているのかね」
なんでそんな謎に満ちた表情をするんだ。
「……准将、まさかとは思いますが何もお聞きになっておられないのですか?」
「何をだ…君はもう少し文章を構成する事を学んだ方が良い」
「失礼しました。この三名が北部特務部隊の小隊長に任命される事になっているのですよ。三人共、私に勝るとも劣らない優秀な魔装兵です」
思わず唖然とする。
そういえば小隊長たちの名前すら聞いていなかったな。
バギンス中将閣下も意外と抜けているところがある。
「知らされていなかった。というか、小隊長がいること自体、聞いたことすらなかったな。そうか、その三名が特務部隊の基幹隊員になるのか。だが、お前と同程度とはあまり期待できんな」
「准将と比べると私程度あれですが、比べないで下さいよ。いちよこれでも、私は近衛兵団十傑の第十席にいるんですからね」
なんだそれ。初耳。
「十傑?そんな凄そうな所の第十席が君という事は、その十傑とやらは大した実力者がいそうではないな…私らしからぬ傲慢な発言だ、忘れてくれ」
だが、本当に傲慢な発言だろうか。
王国で確定撃墜を見てみても、最も多いのは魔装兵団兵団長のパトリシエでその数は121。
次いで私が117。
特殊な立場にいる私とは違い、パトリシエは既に兵団長なので出撃することはまずあり得ない。よって次の出撃当たりで私は真のエースになれる。
「第一席はあのダグル団長ですよ。近衛兵団という精鋭集団の中で26の時から団長を努めている、王国最強の男ですよ」
王国最強か。
「私とダグル団長。殺し合いならばどちらが、勝つ?」
モンタの目が見開かれたのを見て、失敗したと思った。
どちらが強いのかという純粋な質問だったが、味方同士が本気で殺し合えば、などという前提条件事態がおかしい。
だが、だがだがだがだがアアアアアア!!!
殺し合わなければ本当にどちらが強いのかは分からないだろう。
全てが定められている競技系の訓練より、何が起こるか分からない、どんな事でも起こりうる本物が一番だ。
「何でもない」
最近、気を緩めすぎではないか。人前では己を律し続け、冷静ではなくてはならない。私は優秀な軍人だ。もしかしたら、戦場を長く離れすぎた弊害かもしれない。
「そういえば、今日の午後から各団長、副団長、そして王女による報告会がある。お前も副団長だろう。参加しろ」
さすがに青ざめ過ぎではないか。
まぁ、一昨日まで遠くに居た人と会議できるなんて夢みたいなものだろうな。
「君は特務部隊の副官なのだぞ。その階級章に見合った働きをしてくれ。集合は一四〇〇までに大噴水にいろ。返事は」
「はぁい」
なんて覇気のない返事だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後まで時間があるので軍大学へ入学するため今日は必要な物を揃えることにした。
王城内にある店で一通り揃えることもできるのだが、ここは一度王城外へ出て気分転換をしてみる事にする。
王都に来たのは三度目だ。
最初は士官学校に入学するための書類審査で。二度目は士官学校主席卒業者として受賞するためだ。
どちらも春頃の季節だったため、今日のような雪が散らついている日は初めて。
丁度、冬物の服が欲しいと思っていたので買うことにした。
今持っているのは先日頂いた宮廷守護人用礼装、いつも着ている軍服、式典用礼装、シャツ二枚にパンツが二着のみだ。戦闘服は少し破損するだけで替えの物が与えられるので、問題なく過ごしていたが。ここに来て分かった。
服が足りない!
毎日、式典で使うような礼服でいれるわけがなく。
かと言って、軍服を町中で着ることもできない。
「失礼します」
王家御用達婦人服専門店と書かれている店に入ろうとして気づく。
こういう店に入る時は何をどのように言えばいいのだ。
失礼致します、だとおかしいな。
丁寧な口調は大切だ。軍人が不祥事(?)騒ぎなど洒落にならない。
そして入店。うう、緊張する。
「失礼します」
あ、完全に失敗したな、これ。
店主が顎を外しそうな勢いで驚いている。
「あ、あの。フクヲクダサイ」
言語機能に傷害を確認!修復不可能!
「い、いらっしゃいませ」
気まずい沈黙。
「どのような服を見繕いましょうか?」
奥の方から何かを察知して、店主の妻が出てきた。
「一週間分の服をお願いします」
配給所で食料や弾薬の運搬を頼む時、必要日程をはっきりと伝えるように言われている。
完結に述べる、それでこそ優秀な軍人たる証だ。
「い、いっしゅうかんぶんのフク?」
どうした、女店主?
お前の気力はそんな物か。えぇ?
だが、店主とその妻は顔を見合わせると大きなハテナが浮かんでいるようにも見える。
「ワンピース、シャツ、その他色々ございますが。どうしますか?」
ん、ワンピース?
「いやだからだな。一週間分の服を頼む、なるべく安めに済ませたいが高級軍人たる服装にしてほしい」
「当店にあるのは服だけでございます。下着類なのどお取り扱いはしていないのですが、如何致しましょう
か?」
「だが、ここは服屋だろう。服屋に服がないのか?」
顔を見合わせ。首をかしげる。
その時、後ろの扉が開き、チリリンとベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませ。これはこれは、いつもありがとうございます」
店主が愛想のいい笑顔で客人を迎える。
振り返るとそこにいたのは、エヴァ王女殿下、その人だった。
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