第19話 レイクスネーク

 家に帰るとクレア(モンスターハンター)が私に抱きついた。


「おい」


「あー、抱き心地最高ー。ずっとこうしていたいよー」


「離せ、クレア。着替えにくい」


「え? 着替え? 今から? ねえ、今から?」


「ああ、そうだ。だが、お前が期待しているようなことは何もないぞ」


「えー、そんなー。クーちゃんのはだか見たいよー」


「私がお前の前で無防備になると思うか?」


「なってほしいなー」


「なるか! バカ者!」


 私はクレアを蹴り飛ばして家の外まで追い出すと町で出会った少女たちの服の中から動きやすいものを頭の中で選択した。

 私はそれを自分に着せるイメージ……まあ、モンスターに変身する時と似たようなイメージで服を作った。


「よし、できた。おい、もう入っていいぞ」


 返事がない。

 うーん、もう少し加減した方が良かったかもしれないな。

 私は家から出るとクレアを呼んだ。


「おーい、クレアー。もう着替え終わったぞー」


「クー、ちゃん……お願い、来ないで……」


「知らんな。私はお前のおもちゃじゃない。私に命令できるのは私だけ……だ」


 どうして……どうしてあいつがここにいるんだ?

 私を追ってきたのか?

 だとしたら、なぜ私を狙わないんだ。

 なあ、ゴーレムよ!!


「クレア!!」


 私はやつの手の中にいる瀕死状態のクレアを助けるためにクマ型モンスターに変身した。

 パワーにはパワーだ。

 私のこぶしがやつの頭を吹っ飛ばす。

 土がある限り何度でも再生できるとはいえ、頭を攻撃すれば大抵のやつは力が抜ける。

 だから、私は頭を狙ったのだ。


「クレア、しっかりしろ! おい!」


「あ、あははは、油断……しちゃった。ごめんね、クーちゃん」


「謝らなければならないのは私の方だ。すまない」


「いいよ、クーちゃんはまだ子ども、なんだから」


 彼女はそう言うと意識を失った。

 私は彼女を自分の体内に取り込んで回復魔法が使えるモンスターに彼女の治療を頼んだ。

 私の魔力探知はキメラゆえに普通の魔力探知より精度はいい。

 それなのにこの有様。

 なんだ? ゴーレムは魔力だけでなく気配も消せるのか?

 厄介だ、厄介すぎる。いったいどうすればいいんだ。

 まあ、とりあえず今は……目の前にいるこいつを倒すことだけに集中するとしよう。


「ガガガガガガガガ!」


「うるさい! 黙れ!!」


 最初にお前と出会った時、私がなぜお前を食べなかったのか分かるか?

 それはな……お前を食べたら、明らかに口の中がパサパサになりそうだったからだ!

 私はレイクスネークに変身すると、口からやつの体めがけて大量の水を発射した。


「ゴボゴボゴボゴボ……」


「ざまあみろ! お前の負けだ! ゴーレム!!」


 私はどろになってしまったやつをできるだけ圧縮すると、一口でやつを食らった。

 まずい……ジャリジャリしている。

 今すぐ吐き出したい。が、やつの力を取り込まなければクレアがまた傷ついてしまうかもしれない。

 それにこいつを解析すれば、こいつを生み出した魔法使いのことが分かるはずだ。

 だから、私は嫌々やつを食らった。


「……ごちそうさまでした」


 私はクマ型モンスターに変身すると、まあまあ回復したクレアを腹から出した。

 私は人の姿に戻ると彼女を家まで運んだ。

 私が彼女をベッドまで運ぶと、彼女は目を覚ました。


「クー、ちゃん」


「なんだ? クレア」


「私、どうなったの?」


「一応助かった。が、今日はもう休んだ方がいい」


「そっか。じゃあ、抱き枕になって」


 私は少しカチンときた。

 死にかけたやつが言うセリフではなかったからだ。

 だが、やつの目は本気だった。


「……分かった。ただし、今日だけだぞ」


「ありがとう、クーちゃん。私の天使ちゃん」


 誰が天使だ。私はキメラだ。

 私はそれを口に出さなかった。

 今の私は彼女の抱き枕。

 おとなしく彼女に抱かれていればいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る