第17話 そういうもの

 クレア(モンスターハンター)は私にいろいろな服を着せた。

 白いワンピース、かなりダボダボなモンスター寝巻き、メイド服、体操着、ドレス、フリフリスカート、軍服、バニー、水着、絆創膏ばんそうこう、包帯、パーカー、タキシード、全身タイツ、神、天使、悪魔、魔王、人魚、小人、鬼、吸血鬼、魔女、ペルソナ、ドラゴン、そして……妖精。

 最後のやつ以外なら、なんでも良かった。その店の方向性はともかくとして、妖精以外ならなんでも良かった。が、なぜかクレアが選んだのは妖精だった。

 なんでも一番私に似合いそうらしい。


「おい、クレア」


「なあに?」


「私は妖精が嫌いなんだが」


「え? そうだっけ? 恨んでるのは知ってるけど、嫌いだってことは知らなかったなー」


 恨んでいる対象を好きなやつがいるのか?

 まあ、いないと断言できないから否定できないのだが。


「他に買っておくべきものはあるのか?」


「うーん、あとは日用品くらいかなー」


「そうか。なら、私はもう帰る」


「えー、なんでー?」


「時間の無駄だからだ。お前は楽しいかもしれないが、私はちっとも楽しくない」


「そうなの? じゃあ、ちょっと早いけどお昼にしようか」


「私は別に腹は減ってな……」


「あっ! あそこのお店にしようよ! ほらほら、早く早く!」


「ちょ、あんまり手を引っ張るな。ちぎれる」


 この女は欲望に正直というか、すぐ行動するな。

 まあ、何もしないよりかはマシだが余計なことに首を突っ込みそうで怖い。


「クーちゃん、口開けてー。ほら、あーん」


「は? なぜ私がそんなことを……」


「クーちゃん、お願い! 一口だけでいいから、ね?」


「……一口だけだぞ」


「わーい! やったー! クーちゃん、ありがとう!」


 なぜそんなことで感謝するんだ?

 というか、なぜお前はずっとニヤニヤしているんだ?

 わけが分からない。


「……これは魚を焼いたものか?」


「そうそう、でも海で泳いでるやつじゃないよー。空を飛んでる魚だよー」


「ほう……空を飛べる魚か」


 その時、私は気づいた。

 食べたものからでも生体情報を獲得できると。

 キメラというのは便利だな。ん? ということはこの女を食えば……いや、やめておこう。

 こいつの体は重そうだ。特に胸部あたりが。


「ん? どうしたの? クーちゃん。もしかして私のこと好きになっちゃった?」


「それはない。が、少し気になってはいる。お前のように強くてきれいなやつがなぜ結婚できないのだろうな」


「自分で言うのもなんだけど、強くてきれいだからだよ。男は自分がいなくても大丈夫そうな女の子には興味がない。まあ、女でもそう思うね。何か欠点があった方がモテるよ」


「そういうものなのか?」


「そういうものだよ」


 ふむ、人とはモンスターより面倒なのだな。

 モンスターのオスなんか「あいつとしたい! 即アピール! 成功した! 性行しよう!」だぞ。

 モンスターのメスは「なんか来た。まあ、そこそこいいかな。なんか子どもできた。子育てしよう」だ。

 人はもっと気楽に生きるべきだ。が、それができないから苦労しているのだな。

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