第2話 ルームメイト
基地に戻って久々に風呂に入る。
一日の休暇をもらって次の日は通常通りの訓練に戻る予定だ。
「おっかえりー」
「ただいま」
久々に自室へ戻るとにやりと笑ったルームメイトがコタツに入りながらこちらを見ていた。
長月弥生≪ナガツキヤヨイ≫。
RSDFの女子寮は2人の相部屋である。
冬が近づく肌寒い季節であるにも関わらず、クーラーを16度に設定してガンガンに冷やしている彼女はコタツに入ってはんてんを着ていた。
「相変わらず頭がおかしいけど」
「そう褒めないでよー。照れるじゃん」
本気で照れている弥生をよそに丹子はクーラーとコタツの電源を切った。
「あ!消したな!」
「消しますとも。電気代もったいないので」
「なんでだよー!」
コタツに入りながらアイスを食べている弥生は文句を言いながらコタツのテーブルに突っ伏す。
「虹油様様で電気代もガス代もタダ同然なご時世だよ?」
「それでももったいない精神は必要でしょ?」
「はー。やれやれ時代遅れはこれだから。日本の海の地下油田が発見された時点で世界は変わったの。わかる?あの虹色の油で日本人は裕福になれたの!」
「あー、はいはい」
食って掛かっても面倒なので話半分に流す。
もちろん虹油の恩恵を受けている丹子であるが、どうも虹油を好き放題使う気にはなれない。
水に油を垂らしたときにできる油膜のような虹ではなく、くっきり本当に虹色に混ざり合っている油はそれだけで丹子には十分不気味に見えた。
「鬼子全然きいてないでしょ」
「まあ、10分の1くらい?」
「いや、ほとんど聞いてないじゃん!」
そう言って頬を膨らませる弥生。
鬼子は弥生が丹子を呼ぶ時の愛称である。
初めてニイオニコという名前を聞いてなぜか、ニイ オニコで区切った弥生の勘違いから始まっている。
そこからあだ名は隊内へ広がっていい迷惑である。
「それより、そっちの抗争どうだったの?私より早く帰ってるってことは、すぐに終わったってこと?」
「あー、それが、敵さんすぐに降参したみたいで、派遣されたものの現地に到着する前にUターン」
「大変だったね」
「いや、そっちほどは」
RSDFの東京基地に所属する丹子と弥生であるが、抗争の際はそれぞれ別の地域に派遣されることが多い。
基本的に丹子は神奈川方面、弥生は千葉方面である。
弥生が派遣された千葉方面は、今回弥生の出番はなかったようだ。
大抵の抗争の舞台になる場所は海辺が多い。
その理由は、もちろん敵が船で侵出してくるからである。
飛行機で空襲される可能性もあるが、原爆を落とされないために不審な航空機が接近してきたら警告ののち、相手が引き返さない場合は日本に到達する前に撃ち落とす技術が発展したため、もっぱらの戦場は船が到着する海辺である。
「そっちは相変わらず、みすみんのお世話してんでしょ?大変だね」
「まあ、大変なのは否定できないけど」
「いやー、アタシじゃまず無理だわ!」
「まあ、アンタはどうみても世話される側だよね」
「なんだと!?」
そんなくだらない話をしてあっというまな休暇を過ごすのが日課である。
「明日の訓練まじでだるいなー」
「私ももう少しくらい休みたかったかも」
愚痴を漏らしながら二人でコタツテーブルに突っ伏してため息をついた。
翌朝、身支度を整えてまだ薄暗いうちに部屋を出る。
他の隊員たちがこそこそと噂話をしているのが耳に入る。
「ねえ、聞いた?今日の訓練の成績でバディ替えがあるかもだってさ」
「うわ、まじか」
バディ。
RSDFにおいて用いられている二人一組で訓練、戦闘などあらゆるミッションをこなすパートナーである。
バディは主に敵に攻撃するマスターと、補助や防御に徹するアシストの二つの役割に別れている。
基本的には入隊時に好きな相手と組むことになっているが、戦闘成績が芳しくない場合にバディ替えの命令が出されることがあった。
「ま、鬼子なら余裕だろうけど。みすみん化け物級だしね」
「あの人は確かに強いけど、私は並だから頑張らないと外されるかもしれない」
「いや、それはない。鬼子とバディ組む前はしょっちゅうバディ替えしてたって言うじゃん。なまじ実力あるからみんな組みたがるけど最短1日でバディ解消したこともあるらしいよ。あいつの面倒見れるのは鬼子だけだって」
「まあ、言い方も態度も悪いしね」
「アタシだったらあんなの絶対無理!」
寮を出ると立ち止まった私に弥生が振り返る。
「今日もお勤めご苦労様―。じゃ、アタシは先に行くわ」
「うん、またあとで」
先に行く弥生を見送ってから男子寮の方向を見る。
いつも訓練前は三嵩が出てくるのを待って、合流してから訓練へ向かう。
そのことを弥生はからかいを含んでお勤めと言うのだ。
数分も待たないうちに三嵩は姿を現した。
「おはようございます」
「ああ」
それだけの無愛想な返事をして私の方をちらりとも一瞥せずに歩いていく。
足が長くて歩幅が大きい三嵩に着いていくのは最初のうちは苦労したが、小走りにも慣れたものだ。
同期をぐんぐん追い抜かして訓練場に向かう。
もちろん、三嵩には丹子に歩幅を合わせるなんて発想はない。
周りは三嵩を見るとこそりと耳打ちをしていた。
“でたよ、深澄”
成績優秀だが態度の悪い三嵩には敵は多い。
三嵩は丹子と一つ歳が離れているため一年早く入隊していたが、その時はまだ決まったバディがいなかったため、三嵩のバディを狙っていた連中は愛想よくしてくれていたものの、丹子が入隊しバディを変えなくなってからはうっとうしさの方が勝るようである。
三嵩を支えている側の丹子が孤立を助長させているのもおかしな話だが、三嵩を一人にはしないと丹子は心に決めていた。
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