メグとはじめての料理
夕方の台所。そこには大人のケモミミ女性一人とメイド服を着たケモミミ女の子が一人。
目の前には夕飯の食材と調理器具。
「さて、始めますか」
「よ、よろしくおねがいします!」
モミジとメグの夕飯作りが始まった。
ことの始まりは今日の昼のこと。休日、家に突然やってきたモミジの「今日は何しよっか」という一言だった。
以前、メグはご主人が風邪をひいたときに看病したということがあった。しかし、看病と言ってもいつも通りの家事をする以外にはゼリーを買ってくるということしかできなかったのだ。
だからその時「料理を教えてください」とお願いした。
次にこんなことがあっても役に立てるように。
ちゃんとメイドとして働けるように。
だが、あれ以降いつまでたっても教えてくれない。
夕食のたびにご主人に頼んでみるものの、毎回のごとく簡単な作業を任されてしまう。包丁や火を使わない作業ばかり。
役に立てていることはうれしいが、正直不満は溜まっていった。
火も包丁も危ないことはわかっている。だが、過剰に心配されるほど子供じゃない!
そこで、休日にたまたま家にやってきた母親、モミジに頼み込んで料理を教えてもらうことになったのだ。
「修司くんは夕方に帰ってくるそうね。それまでにやっちゃいましょうか」
「はい。おかーさん、今日は何作るんですか?」
気合を入れるメグに対し、モミジは顎に人差し指を当てる。
「そうねぇ……それなら。お味噌汁を一人で作ってみよっか」
「りょーかいです! メグは何をすればいいですか?」
「ん、その前に包丁と火を使うから、足場を持ってきなさい」
「はーい」
とてとてとてと台所から出ていき、メグはどこからか足場を持ってくる。それに乗ればまな板がちょうどいい高さになる。
これならば包丁も自由に扱える。
「準備できましたー!」
「よろしい。じゃあ、メグにはお味噌汁を作ってもらいます」
「あい!」
「材料を切って、出汁を作って、後は味噌と一緒にひと煮立ちさせれば完成よ」
「わぁ、聞いてみるとすっごく簡単そうです!」
「実際、簡単よ。いくつかの注意を守っていればね」
「あい!」
お味噌汁は作るだけなら簡単だ。
だが、料理人が初心者かつ子供であるならばいくつか注意しなければならない。
「まずは包丁。お野菜もお肉も切れる便利な道具だけど、下手をすると指も切れちゃうわ」
「ゆ、指! 気を付けます!」
「食材を抑える手はパーではなくグー。指先は丸めて、猫の手です」
「あい!」
にゃんと鳴く犬耳メイド。両手は猫のポーズ。
「次に、包丁は使ったらすぐに洗ってしまうこと。まな板の上には置いてはいけません」
「え、でもご主人はよく置いていますよ」
「それは料理がある程度できてから。まな板に置いてて、なにかに引っかかって落ちたらたいへんでしょ?」
「足に刺さったら大けがしちゃいます!」
「うん。包丁は便利だけど危ない道具です。まな板においていいのはある程度慣れてからね」
「にゃん! あ、ちがいました。あい!」
手を上げて猫の返事をする犬耳メイド。すぐに間違えに気付いて手指を伸ばして返事をする。
「火を使うとき、火をちゃんと見ておくこと。消したことを確認すること」
「あい! 火事になったら大変です」
「そう。だからコンロを使うときは付けるとき、消す時は絶対に確認すること。特に消す時!」
「付けなくても家事にはならないけど、つけっぱなしだと危ないですからね」
「その通り!」
そのほか、細かな注意点と簡単なみそ汁の作り方の手順のレクチャーを受けた。
今日の味噌汁の具はほうれん草と豆腐だ。
文字通り、切ってゆでるだけ。難関があるとすればやわらかい豆腐をどう切るかだが。
「おかーさん、ご主人はお豆腐を切るときは手に載せていたけれど、私もやっていい?」
「初めてならやらないほうが良いわよ。両手がふさがっちゃうし、包丁の使い方に慣れてきてから挑戦しなさい」
「はーい」
母の助言に従い、豆腐はまな板の上で切ることにした。
手の上に載せてすっすっと切ることに少し憧れてはいたが、仕方ない。切った後の豆腐をそのまま鍋に入れる様子はひそかにかっこいいと思っていたのだが、それはまたの機会にしよう。
「ほうれんそーう、ざくざく~♪」
「根元の方から先に入れて、葉っぱの方は後に入れるのよ」
「あーい。ざくざく~なべなべ~♪」
ちょうどいい大きさに切ったほうれん草を沸騰した出汁に入れる。少し時間がたったら、葉っぱ、豆腐を入れて。
「はい。お玉と菜箸。お味噌汁はお玉の中で溶かしながら少しづつ入れるのよ」
「あい! おみそ~おとうふ~ほうれんそう~♪ ぐるぐるとかす~♪」
メグの即興みそ汁のうたを聞きながら、モミジは夕食作業を進める。
よくもまぁ即興で曲が作れるものだ。
メインディッシュを作っていると、メグのお味噌汁も完成したようだ。
すると、家の外で聞きなれた足音が響いてきた。
「ん、メグ、ご主人さまがお帰りみたいよ」
「え、ホント? ……あ、ほんとだ。ごしゅじーん!」
駆けだす足をはっと止め、コンロの火を止める。火が消えたことをしっかり確認すると、メグは玄関に走って行った。
「ごしゅじーん。おかえりなさい! あのね、あのね! 今日はメグがお味噌汁作ったんだよ! おかーさんに教えてもらいながらだったけど、ちゃんと作れたよ! 一緒に食べよう!」
千切れそうなほど尻尾をぶんぶん振りながら、愛しのご主人をお出迎えするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます