メグと和風メイド

 夕食後、食器洗いを終えてリビングに戻ってみると、メイド服を脱ぎ捨てたメグがいた。


「あ、ご主人、お疲れ様です! ホントは私がやりたかったのですが……」

「いや、皿洗いくらい別にいいけど……なんで服脱いでるの?」


 彼女の着ていたフリルたっぷりのメイド服は綺麗にたたまれて横に置かれている。

 おそらく、この綺麗な畳み方をしたのはモミジさん。しわなく歪みなくきれいにされている。メグにはできない。

 そんなモミジさんはメグの隣で正座をして見守っている。手にはまた別の服。大きさ的にはおそらくメグのもの。


「おかーさんが新しいお洋服を持って来てくれたんです!」

「あ、そうなんだ」


 や、ここはメグとモミジさんの家だし、居候させてもらっている自分が言うのもなんだけど、着替えとかはリビングでやらないほうが良いと思う。

 メグをそういう目で見るってことはないが、もう少し恥じらいを持ってほしいというか……。

 いいや、深く考えるのはやめよう。


「ふふ、メグのメイド服も一着だけだと寂しいからね。ようやくできたから持ってきたのよ」

「そうですか。これが……なんだかいつものやつと違いますね」

「そうなのよー。この系統もメグなら絶対に合うと思ったの!」

「もー、ご主人じろじろ見ないで! 恥ずかしいです!」

「あ、ごめんね」


 ちゃんと恥じらいはあったようだ。

 近くのソファーに座り背中を向けてスマホをいじる。

 特にやることはないので、スマホの写真フォルダを覗いて写真の整理をする。

 モミジさんにはメグの写真を頼まれていたりもするので、その選別もしとくか。

 普段のメグや買い物中のメグ、こないだピクニックに行った写真とかもよさそうだ。

 ちなみにメグにバレないように隠れて取っているのもいくつかある。バレたらメグが恥ずかしがりながら怒るのだが、やめるわけにはいかない。これもモミジさんの指令なのだ。

 普段会えないからこそ写真をいっぱい撮ってほしい。そんな娘を愛する親心を思うと、撮影の手はやめられない。


「これもいいな。これも可愛い。あ、これはぶれてるな」


 きれいにとれている写真を残し、ぶれているモノ、見切れているものは削除しておく。撮っている量が多いので消しすぎて困ることはない。

 洗濯物をたたむのに悪戦苦闘するメグ、ジュースをこぼして慌てるメグ、フリスビーを楽しそうに追いかけるメグ。うん、どれも可愛い。


「ご主人、着れましたよー! 見てください!」

「お、どれどれ」


 振り向くと、そこにはかわいらしいケモミミロリメイドがいた。

 いつものメグだが、メイド服がいつもと違う。

 薄緑を基調としたいわゆる和風メイドだ。

 和服特有の左右に重ねた襟に、お給仕にはあまり向かなさそうな長い袖丈。

 白いエプロンは裾と肩ひもにフリルがあしらわれていて、華やかさがありつつも可愛さが強調される。

 そして、膝丈のスカートは市松模様と多段のフリルスカートが組み合わされていて、和と洋が見事にマッチした衣装となっている。

 頭には犬耳を強調するような控えめなリボンカチューシャ。スカートからはメグの尻尾がぴょこんと飛び出ている。耳、尻尾のことも考慮した完璧なメグ専用和風メイド服だった。


「(カシャカシャカシャカシャ)」

「もうッ! 無言でカメラとらないでください! 何か言ってくださいよー!」

「――はっ⁉ ごめん、あまりの可愛さについ……」

「(カシャカシャカシャカシャ)」

「おかーさんも!」

「あぁぁ! メグすっごくかわいいわ! 作っているときも想像してたけど、いざ着てみると予想の数十倍も可愛い! さすが私! この色合いも模様もばっちり、いえそれ以上だわ!」

「おかーさん!!」

「はー―ッ⁉ ご、ごめんね。つい夢中になっちゃって……」


 口からこぼれかけたよだれを拭うと、落ち着きを取り戻すモミジさん。

 だが、ふとした表紙に今にもでれでれの親バカ顔に戻ってしまいそうだった。

 や、気持ちはわかる。だってすごくかわいいもん。


「でも、自画自賛になるけど、我ながらここ最近で最高の出来だわ」

「さすがモミジさん。メグの魅力をわかっていらっしゃる」

「ふふふ、母ですから」


 ドヤ顔で胸を張るモミジさんには最大の拍手を送りたい。

 メグが普段来ていた洋風メイド服ももちろん可愛いが、こちらの和風メイド服もかなり可愛い。しかも、メグの可愛さを引き出しつつ、衣装が主張しすぎることのない絶妙なデザインだ。


「すごくかわいいよ」

「わーい、ありがとうございます! この長い袖とか、スカートの模様とかすっごく大好き!」

「そこは一番頑張ったところよ。苦労した甲斐があったわ」


 メグがくるりと一回転するとふわっとスカートと裾が舞い上がり、薄緑色の衣装が舞う。

 世界中のどこを探しても、これほど可愛い和風メイドは見つからないだろう。


「おかーさんもありがとー!」

「いいのよ、私がメグに着てもらいたかったってのもあるしね」

「それでもありがとう! 明日からはこれを着て頑張るね!」


 両手にこぶしを作って気合十分なメグ。

 明日からはいつものメイド服と和風のメイド服、どちらを着てくるのかが毎朝の楽しみになりそうだ。


 その後、ひとしきりメグの新衣装お披露目会&撮影会が終わった後、メグは疲れたのか着替えて先に寝てしまった。


「そうだ、修司くん」

「はいはい」

「いつものアレ、ちょうだい?」

「アレですね? わかっていますよ」


 きらりんとモミジさんの目が光ったような気がしたが、気のせいだ。

 必要以上に言葉を交わす必要はない。

 俺はスマホを取り出し、メッセージアプリを開いく。


「今回はなかなか良いものが多いですよ」

「あらー。それは期待しちゃう」

「それ、それ。これとかすっごくかわいいですよ」

「あぁああぁ! これ良いわねー! わぁ、ピクニックに行ったの? たのしそうー!」

「ふふふふ、まだまだありますよ」


 深夜の闇取引現場。それはメグのスナップ写真を送り、二人で愛でる会なのだ。

 もちろんメグには内緒。すごく恥ずかしがるから。


「あぁぁ。おつかい頑張っているメグも可愛いわぁ!」

「こちらのサラダを作っている様子も」

「いいわねぇ!」


 ひとしきり写真を送り終わるころには日付が回ろうとしていた。

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