メグとピクニック

「ご主人おはようございますー!」

「ごふぅぁ⁉」


 腹部への強烈な衝撃。肺の中の空気を一気に吐き出されるとともに眠気が吹き飛んだ。

 目を開けるとまず飛び込んでくるのは笑顔のイヌミミ少女。

 普段はもうちょっと優しく起こしてくれるんだけどな……。


「お、おはようメグ」

「はい、おはようございます!」


 にっこりと返事をするメグはすでにメイド服に着替えていた。黒を基調とし、白のフリフリをふんだんにあしらった可愛さ前回のメイド服。正直、お給仕するようというよりコスプレに近いが、これがメグの普段着だ。


「気持ちいい朝ですよ! お天気です!」

「目覚めは最悪だけどな……」


 確かに一発で目が覚めるが、今後はこの起こし方は禁止だ。


「テンション高いな」

「だってだって、今日はご主人さまとピクニックですよ!」

「はいはい。じゃあ朝ごはんの準備するから、とりあえず食パンをトーストに入れといて」

「かしこまりー!」


 まだ衝撃の感触が残るお腹をさすりながら洗面所へ向かう。窓から見える空は綺麗な青色。ピクニック日和だ。


◇◆◇◆◇◆


「着きましたー!」

「着いたな。近所の公園だけど」

「ピクニックです!」


 少し歩いた先にある芝生が青い公園。動きやすいフリル少なめのメイド服で、俺はGパンとTシャツ姿でやってきた。リュックの中にはお弁当とビニールシートと遊び道具がいくつか。

 以前からメグがやってみたいと言っていたピクニックだ。

 着いたとたん、両手を広げて走り回る。ぐるりと公園を一周すると、その勢いのまま俺にタックル――


「どーん!」

「ぐぉ⁉ や、今度は受け止められたぞ!」

「さすがですねご主人」


 朝の教訓を生かし、何とか受け止められた。

 メグは目をキラキラさせながら尻尾をぶんぶん振っている。思いっきり走り回れるところに来れて興奮しているようだ。


「ご主人、ここすっごい走りやすいよ!」

「はいはい。とりあえずシートひくよー。手伝ってー」

「あ、ごめんなさい。つい興奮しちゃいました」


 適当な木陰にビニールシートを引いて、端に荷物を置けば完成だ。


「できましたー!」

「うおー、寝っ転がるぞー!」

「もー、ご主人! 寝ないで遊んで―! 遊んでー!」

「ぐぇ」


 靴を放り投げてビニールシートの上に横になると、覆いかぶさるようにメグが飛び乗り、駄々をこね始めた。


「えー、今日はお弁当作るために朝ちょっと早かったしー、ちょっと歩いて疲れたしー」

「起きた時間は私と同じじゃないですか! お昼まで遊びましょうよ。遊んでください―!」


 ぽかぽか胸を叩いながら暴れるもので、仕方なく起き上がる。

 まぁ、少しからかっただけだ。

 傍らのリュックを引き寄せ、中の物を探る。


「いろいろ持ってきたね。なにしてあそぼうか?」

「フリスビー!」

「即答ですか」


 ソフトボール、バトミントン、トランプなどいろいろ持ってきた中で、メグは青色のフリスビーに飛びついた。

 パタパタと尻尾が動く。


「ふふっ」

「あ、え? な、なんで笑うんですかー⁉」

「あ、ごめんごめん。メグがあんまりにも嬉しそうだから」

「……だって、ご主人がせっかくピクニックに連れてってくれたんですもん」


 メグはフリスビーを抱えて口元だけ隠して上目遣いになる。


「ダメでしたか……?」

「ダメじゃないよ。じゃあやろうか」

「わーい!」


 潤んだ目で見つめてこなくても、元からそのつもりだ。普段は家で(料理以外の)家事を頑張ってくれているメグへのお礼だ。


「ほらほらご主人、はやくー!」

「いま行くよ」


 いち早く芝生を駆けていくメグを追いかける。


「フリスビーは得意なんです。前はママと一緒にやってました」

「ほう?」

「高く遠くに投げてくださいね。ぜったいにキャッチしてみます」

「お、自信満々だな」

「はい!」


 フリスビーをメグから受け取り、ストレッチをする。その間、メグは俺の横で尻尾をパタパタさせて今か今かと待ちわびている。一向にはなれる様子はない。


「えーと、メグ?」

「はい!」

「……ん?」

「ご主人、はやくはやく!」

「え、このまま?」

「え? はい!」

「えー……じゃあ、投げるよ?」

「いつでもどうぞ!」


 よーいどんの態勢で俺のフリスビーを待ちわびているメグ。期待に満ちた目線を浴びながら投げるのは非常にやりにくいが……。


「……えい!」

「わんっ!」


 フリスビーを高めに遠くへ投げる。

 すると、メグは俺が投げると同時に駆け出す。


「うわ、早い!」


 さすがは犬っ娘。本物の犬に負けるとも劣らない速さで芝生を走る。


「近いし高いし、よゆーです!」


 一定の高さまで上がったフリスビーはゆるりと落ちていく。

 いち早く落下地点にたどり着いたメグは、フリスビーを待ち構えタイミングよくジャンプした。


「わふー!」


 空中できれいに両手でフリスビーをキャッチ。

 そうして綺麗に着地を決めた。


「ジャンピングキャッチは得意ですよー。ご主人、次はもっと遠くでお願いします!」

「あ、うん」


 ドヤ顔のメグに戸惑いながらも、フリスビーを受け取る。

 なんだろう、メグは可愛いんだけど、これはなんていうか……。


「……ペットと遊んでいる感覚だな」

「んー? 何か言いましたー?」

「なんでもないよー!」


 今度はもっと遠くで華麗に空中キャッチを決めるメグ。

 まぁ、メグが楽しいのならそれでいいや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る