第20話 また大切な彼女を奪われる

 栞ちゃんはまだ、学校に来ない。


『もしかして、また梶野くんと何かあったの?』


 僕が問いかけると、


『大丈夫だよ。次郎くんは心配しないで』


 そう言ったきり、彼女との連絡は途絶えている。


「はぁ……」


 幼馴染として、何もできない自分が悔しい。


「ジロー、大丈夫?」


 公園のベンチにて、となりに座っていた亜里沙ちゃんが、僕のことを慰めてくれる。


「うん、ありがとう……」


「やっぱり元気ないな……あ、そうだ」


 亜里沙ちゃんは、胸の谷間に手を突っ込んだ。


「はいっ、久しぶりのおっぱいジュース」


 ドーン!


「……あ、亜里沙ちゃん」


「って、ごめん。こんな時に、ふざけちゃって」


 亜里沙ちゃんは下を出して言う。


「ううん、そんなことないよ。ありがとう、亜里沙ちゃん」


 僕は彼女からそのジュースを受け取った。


「えへへ」


 亜里沙ちゃんが嬉しそうに微笑む。


「――へぇ、ラブラブじゃん」


 その声に振り向くと……


「……あんた、梶野」


 彼の姿を見て、僕らは身構えた。


「ねえ、君も数日、学校を休んでいるみたいだけど、まさか栞ちゃんにまた暴力を……」


「あー、うるせえ、うるせえ」


 梶野くんはまるでハエを追い払うように、鬱陶うっとうしそうに手を振った。


「――おっ、ムチムチじゃ~ん」


 知らない男たちがやって来た。


 梶野くんのそばに寄る。


「そういや、お前。この前の可愛い子ちゃんだけじゃなく、このムッチリ爆乳ちゃんも味見させてもらってねーぞ」


「いや、こいつすぐ逃げやがったんで。オレのテクで、メス◯キさせられるのが怖くて」


「ハッ! だから、粗◯ン野郎が何を言ってんのよ」


 亜里沙ちゃんが中指を立てて言う。


「テメ、殺すぞ……」


 梶野くんが目をギョロっと向いて寄って来ようとする。


「まあ、待て。まずは、俺らにも食わせてからにしろよ」


 ガタイの良い男が、彼の肩に手を置いて言う。


 恐らく、リーダー格だろう。


「……そっすね、竜也たつやさん」


 ニヤリと笑う梶野くんの笑みは、どこか狂っているように見えた。


「ていうか、このヒョロメガネはどうすんの?」


「ああ、殺して良いっすよ」


 梶野くんが僕を見下ろして言う。


「ちょっと、ふざけんじゃないわよ。ジローに手出しをしたら、あたしが許さないんだから!」


「ぷはっ、情けね~! 女に守られてやんの~!」


 梶野くんたちは僕のことをあざ笑う。


「良いぜ、亜里沙。お前が大人しく付いて来れば、そいつは見逃してやるよ」


 そう言われて、亜里沙ちゃんは両手をきゅっと握った。


「……分かったわ」


「亜里沙ちゃん!? ダメだ、こいつらに付いて行ったら……」


 ドゴッ……


「……かはっ」


 梶野くんの膝が僕の腹に減り込んだ。


「ジロー!?」


「……失せろよ、カスが」


 段々と、視界が薄らいで行く。


「ジロー! ちょっと、離してよ! 誰か、助けて……あうっ」


 あ、亜里沙……ちゃん


 そして、僕は意識を失った。




      ◇




 ずっと、コンプレックスだった。


『ぷはっ、あんたのチ◯コちっさすぎ~』


『う、うるせえよ』


 だからその分、キスとか愛撫とか、その他のテクを磨いた。


 顔とトークは生まれつき上手かったから。


 女が途切れることはなかった。


 けど……


『ねえ、あんたさ……何か、薄っぺらいよ』


 あの女、亜里沙は、少し哀れむような目を向けて行った。


 チ◯コ以外を否定されたのは、初めてだった。


 そこでプライドが傷付いた彼は、高校に入って……見つけた。


 清楚で可憐、まだ誰にも汚されていない、学園のヒロインみたいな彼女を。


 しかも、地味で冴えない幼馴染(童貞)付きと来た。


 だから、ここぞとばかりに接近して、見事にNTRを決めてやった。


 そしたら、亜里沙はその冴えない男、次郎とくっついた。


 けど、栞という最高の美少女を手に入れたおかげで、優越感に浸っていた。


 しかし、それも段々と……


「むぐぐ!」


 口にタオルを詰め込まれた亜里沙は、暴れて抵抗していた。


「おい、押さえておけ!」


 竜也が命じると、子分たちはベッドに横たわる亜里沙の四肢を押さえた。


「なあ、桔平。この女のマ◯コ、どんな具合だ?」


「えっ? ああ、まあ……それなりに名器っすよ」


「そうか。じゃあ、たっぷり味わってやるか……おい、剥け」


 竜也が命じると、子分たちは亜里沙の制服を脱がそうとする。


 けど、抵抗しているため、なかなか脱がせない。


「おい、桔平。大人しくさせろ」


「……うっす」


 梶野は暴れる亜里沙に歩み寄ると、拳を振りかざす。


 その時、亜里沙の涙目が目に映った。


 信じられないことに、そのせいで少しためらってしまう。


「おい、桔平!」


 怒鳴られて、拳を振り下ろす――


 ドンドン!


 ホテルの部屋のドアが強く叩かれた。


「あん?」


 竜也が眉をひそめる。


 ドンドン!


「何だよ、うるせえな!」


 叫ぶと、


「警察だ、開けなさい!」


 それを聞いて、みんな青ざめる。


「ちいっ! 何ですぐにバレたんだよ!?」


 竜也が歯噛みをする。


「亜里沙ちゃん!」


 次郎の声がすると、亜里沙が涙ながらに、彼の声のに反応して起き上がった。


「んん~!」


 そして、ついに――


 バァン!


 ドアが倒れて道が開いた。


「――うおおおおおおおおおおおおおおぉ!」


 雄叫びを上げながら、突入する。


「ちょっ、君待ちなさい!」


「戸川……っ!?」


 警察よりも先に突っ込んで来た彼の拳が、


「梶野おおおおおおおおおおおおおおぉ!」


 彼の頬に減り込んだ。


 強く、深く――


「――がはああああああああああああああぁ!?」


 ドォン!


 勢い良く吹き飛んだ彼は、壁に叩きつけられた。


 ご自慢の顔面から激突する。


 ぐしゃり、と何かひしゃげる音がした。


「はぁ、はぁ……」


 ぽろっ、と亜里沙の口からタオルが落ちた。


「……す、すご」


「……あ、亜里沙ちゃん……GPS使わせてもらったよ」


 次郎はスマホを掲げて言う。


 実は以前、何かあった時のために、お互いに位置を把握できるようにスマホのGPSの設定をしていたのだ。


「……ちくしょう、だからすぐに見つけられたのか」


 鼻血を垂らす梶野が言う。


「それだけじゃないよ」


「えっ?」


「梶野桔平……だね?」


 警察が歩み寄って来る。


「片平栞さん……知っているよね?」


 梶野は目をパチパチとしている。


「彼女から被害届が出ている。ちゃんと、映像の証拠付きでね」


 梶野は愕然とした。


「あっ……あいつ……カメラを仕込んでやがったのか……」


 梶野はガクリとうなだれた。


「亜里沙ちゃん、怖かったでしょ?」


 次郎が抱き締める。


「ううん、平気だよ」


 亜里沙は涙をこぼしながら、微笑んでいた。







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