第13話 月明かりの下で、幼馴染の2人は……

 禁欲解禁まで、あと2日。


「も、もう少しだ。がんばれ、僕……」


 自分の部屋にて、股間を押さえながら、必死にそう念じていた。


 そんな時、ピロン♪と。


「あ、亜里沙ちゃんから……」


 そのメッセを確認すると、


『ダーリン、あともう少しでいっぱいエッチできるね♡ あのね、ジローのことをたくさん想っていたら、ここ最近すごく胸が張って来たの。ほら、ギチギチでしょ?』


 とんでもない谷間写真が添付されていて、鼻血よりも下の鼻水が出そうだった。


「ま、まずい……」


 暴発メーターが急上昇する。


 また、あと30分くらいで爆発するぞ、コレ。


「ど、どうしよう。亜里沙ちゃん、こんなに楽しみにしてくれているし……」


 暴発する訳にはいかない。


 でも、どうすれば……


 僕は震える手でスマホを持ち、とある連絡先を見つめていた。


 そして、迷った末に、ダメ元でメッセを送った。


 もうこんな時間だし、望みはきっと薄い……


 プルル。


 電話がかかって来た。


 あまりの早さに驚く。


「も、もしもし、栞ちゃん?」


『ジローくん、大丈夫?』


「ちょ、ちょっとまた、ピンチでして……」


『禁欲の件?』


「う、うん……でも、こんな時間だし、もう……」


『……外で待ってるから』


「えっ」


 そこで通話が終わる。


 僕はスマホを机において、寝ている両親を起こさないように、そっと部屋を出る。


 階段を下って、パジャマのまま外に出た。


 すると、月下に立つ幼馴染がいた。


「……こんばんは、次郎くん」


 微笑んで迎えてくれる。


「こ、こんばんは、栞ちゃん……」


 僕はゆっくりと、彼女の方に歩み寄った。


「……すごい。暗がりでも、次郎くんのまた、すごく元気になっているのが分かるよ」


「お、お恥ずかしい」


「次郎くん、もっと端っこの方に来て」


 栞ちゃんが手招きをする。


 僕は大人しく言うことを聞いた。


「これを静めてあげれば良いんだよね? この前みたいに」


「う、うん……面目ない」


「良いよ」


 そして、僕らは月明かりの下、ひっそりと幼馴染だけの内緒ごとをしてしまった。


 すん。


 僕はまた、栞ちゃんの女神の手によって、いきり立つムスコを静めてもらった。


「……ふぅ、落ち着いてくれたね」


「栞ちゃん、本当にすごいね」


「そ、そうかな?」


 栞ちゃんは苦笑する。


「ねえ、次郎くん。あなたにとって、私って……何かな?」


「えっ?」


 栞ちゃん、まさか怒っているのかな?


 いくら幼馴染だからって、もうお互いに恋人がいるのに、いつまでも甘えて。


 あまつさえ、こんな恥ずかしいことをさせてしまって。


「……い、今も昔も……大切な幼馴染……だよ?」


 後ろめたさから、なぜか疑問形になってしまう。


「……そっか」


「あ、あの、怒っている?」


「ううん、違うよ。むしろ、嬉しい」


「えっ?」


「例え幼馴染のままでも……こうして次郎くんと繋がっていられることが、本当に嬉しいの」


 月明かりによって、栞ちゃんの美しさがより際立つようだった。


 思わず、見惚れてしまう。


「栞ちゃん……僕も嬉しいよ」


「……名残惜なごりおしいけど、もう戻らないと」


「そ、そうだね」


「次郎くん、週末は彼女さんと……だよね?」


「う、うん」


「楽しんで来てね」


「あ、ありがとう。栞ちゃんは?」


「私? 私は……梶野くんとデート、かな」


「そ、そっか……楽しんで来てね」


 僕が言うと、栞ちゃんはニコッと笑う。


「ありがとう」


 栞ちゃんは変わらずきれいなままなのに。


 その笑顔だけ、少しかわいて見えた。







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