第12話 女神の手

 甘いクッキーと、上品な紅茶の香り。


 そして、目の前で微笑む幼馴染の栞ちゃん。


 髪を染めて、イヤリングを付けるようになったけど。


 それでも、彼女本来の清楚さは失われておらず。


 どこまでも愛らしい、彼女のままで。


 そんな素敵な空間において、僕は……


(……ば、爆発寸前だ)


 思い切りムスコがいきり立っていた。


 まだ、栞ちゃんにバレてはいないけど……


 いっそのこと、トイレで抜いて来るか?


 でも……


『ジロー! どうして抜いちゃったの~!?』


 僕の溜めに溜めたコレを待ち望んでくれている亜里沙ちゃんに、申し訳ない。


 そして、僕はコレを亜里沙ちゃんにぶち込むまで、折れる訳には行かない。


 耐えなければ。


 しかし、もってあと30分くらい。


 早めに帰るか?


 けど、せっかく栞ちゃんが、こんな素敵な席を設けてくれたのに……


「次郎くん、大丈夫?」


「えっ?」


「何だか、さっきから苦しそうだから」


「い、いや、何でもないよ」


「もしかして、お菓子あまり美味しくなかった?」


「お、お菓子はサイコーだよ……サイテーなのは、僕であって」


 震える手でティーカップを持つ。


 文字通り、お茶を濁そうと思ったけど……


「あっ」


 震える手で持つから、ティーカップを滑らせてしまう。


 パシャッ、と。


 ズボンを濡らしてしまった。


 ま、まずい!


「た、大変!」


「ご、ごご、ごめん!」


「ううん、良いの」


 栞ちゃんはテーブル拭きを手に取ると、


「ごめんね、とりあえずコレで……」


 僕の濡れたズボンを拭こうとしてくれる。


「い、良いよ、自分で拭くから!」


「遠慮しないで。これくらい、幼馴染なんだから……」


 ビンビン!


「……えっ?」


 栞ちゃんの目の前に、僕のいきり立つムスコが……


 お、終わった……


「……し、栞ちゃん、ごめん」


 ああ、僕はなんてダサく情けない男なんだ。


 実質フラれたも同然の幼馴染の前で、こんな風に立たせて。


 まるで、未練タラタラみたいじゃないか。


 いっそのこと、消えてしまいたい。


「……す、すごい、元気だね」


 栞ちゃんが、口元に手を添えて言う。


「……お、お見苦しい物を」


「そ、そんなことないよ……すごいね」


 し、栞ちゃん。


 僕のこの恥部ちぶを、そんなマジマジと見つめないでくれ。


「な、何でこんなに元気なの?」


「……実はいま、禁欲をしていまして」


「禁欲?」


「うん。亜里沙ちゃんに頼まれて1週間ほど、オ、オ◯禁をしているんだ」


「そ、そうなんだ……すごい」


「うぅ……」


 何だこの公開処刑感は。


 神様は、どこまで僕に試練を与えるんだ。


「……ねえ、次郎くん」


「えっ?」


「次郎くんにはもう、可愛い彼女さんがいることは知っているけど……お願いがあるの」


「な、何かな?」


「これ、ちょっとだけ触っても良い?」


「へっ!?」


 まさかの問いかけに、僕はひどく混乱した。


「い、いや、こんな粗末なモノ、栞ちゃんみたいな美少女に触れさせる訳には……」


「ううん、すごい立派だよ……立派すぎる……ズボン越しにも分かるっていうか……やだ私ってば、何を言っているんだろう」


 栞ちゃんは両手で顔を覆う。


 か、可愛いな。


「……そ、そんなに触りたいの?」


 おい、僕のバカ。


「う、うん。ズボンの上からで良いから……」


「そ、それなら……」


 って、おいいいいいいいいぃ!


 そんなの、亜里沙ちゃんに対する裏切りで……


「……よしよし」


「えっ?」


 栞ちゃんが、微笑みながら僕のそれにソフトタッチする。


 そして、まるで人々をいつくしむ女神のように、優しく撫でてくれた。


「し、栞ちゃん?」


「あ、ご、ごめんなさい。次郎くんの、すごく立派なんだけど……何だか、可愛くてつい……」


 か、可愛いのは君だよ……


「も、もう少しだけ、ナデナデしても良い?」


「お、お願いします」


 お願いしますって、僕。


「よしよし。良い子、良い子」


 こ、これはどういうプレイなんだ……


 その時、僕はムスコの異変を感じた。


 亜里沙ちゃんのお願いで禁欲続きで。


 可愛い栞ちゃんを見て、ムラムラ度が増していて。


 つい先ほどまで、爆発寸前だったのに。


 すん。


 ……僕のいきり立っていたそれは、何と大人しくなった。


 萎えたとも違う。


 女神のような栞ちゃんを前に、大人しくこうべを垂れたのだ。


 な、なんという神秘……じゃなくて。


「あ、何か大人しくなった……そ、それでも、すごく大きいけど……」


 栞ちゃんは呟く。


「……梶野くんの10倍はあるかも」


「えっ?」


「う、ううん、何でもないよ」


 栞ちゃんはパッと手を離して言う。


「は、早く洗った方が良いよ、その手」


 僕が言うと、栞ちゃんは首を横に振った。


「むしろ、洗いたくないかも……なんちゃって」


「し、栞……ちゃん?」


「あ、新しいふきん、持って来るね」


 立ち上がった彼女は、慌ててキッチンの方に向かう。


 僕はしばし、己の股間をさらけ出す姿勢のまま、呆然とする。


 ふと、自分のムスコに視線を下ろす。


 何だか、幸せそうにふにゃけていた。







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