第11話 幸せな時
朝の早い時間、オーブンで焼ける生地の様子を伺っていた。
「あら、栞ちゃん。早いわね」
「あっ、お母さん。ごめんね、うるさかった?」
「ううん、そんなことはないけど……朝からお菓子づくり?」
「うん。今日の放課後、次郎くんが遊びに来るから」
「まあ、そうなの」
栞の母は嬉しそうな顔をする。
「最近、次郎くんと一緒にいる所、見ていなかったから」
「そ、そうだね」
「栞ちゃん、高校に入ってから、何か雰囲気変わったというか、イメチェンしたし」
「ご、ごめんね。髪染めちゃって」
「女の子だもの、オシャレくらいするわ。けど……次郎くんのことは大切にね」
チクリ、と胸の奥が痛む。
「……うん、大切にするよ」
◇
今日は1日、何だか辛いというか、大変だった。
一晩寝たら、とりあえずパンパン具合は収まったけど。
それでも、禁欲のため僕の股間周りで欲望がグルグルと渦巻いている気がする。
やはり昨日、寸止めで終わってしまったことが何よりも辛い。
亜里沙ちゃんに対して、欲望をぶちまけようとした寸前で……
だから、今日は亜里沙ちゃんとお昼ごはんを食べるのを断った。
『あ~ん! ジローのいけず~!』
申し訳ないと思いつつも。
だって今、亜里沙ちゃんの可愛い顔とダイナマイトなボディを見たら、僕はきっと……
そんな苦労を重ねつつ、僕は何とか帰路についていた。
今日はこれから、栞ちゃんの家に行く。
一緒に帰ろうかなとも思ったけど、それは何だか気が削がれて。
帰宅した僕は、栞ちゃんもう帰っているかな?とソワソワする。
スマホで連絡して確認すれば良いと気付くのに、10分くらいかかった。
やはり、今の僕は色んな意味で動揺している。
『もう、家で待っているよ^^』
栞ちゃんから返事が来たので、僕は家を出た。
すぐ隣の、彼女の家の玄関チャイムを押した。
少し待って、玄関ドアが開く。
「次郎くん……来てくれて、ありがとう」
「あっ……」
栞ちゃんは、制服にエプロン姿だった。
か、可愛い……
やっぱり、栞ちゃんって、すごい美少女なんだと、改めて痛感させられる。
「次郎くん?」
「あっ、ご、ごめん。お邪魔します」
「どうぞ」
久しぶりに感じる栞ちゃんの家の匂い。
あの時は、何となくだけど、嫌な臭いを感じた。
でも、今は……甘く優しい、お菓子の香りが僕を誘う。
「わぁ……」
リビングのテーブルには、既に可愛らしいお菓子たちが僕を待ち構えていた。
「これ、栞ちゃんが全部?」
「う、うん。久しぶりに次郎くんが来てくれるから、張り切っちゃった……」
栞ちゃんは照れながら言う。
……か、可愛い。
いや、僕のバカ。
いくらかつての想い人だからって、そんな風に言っていたら、亜里沙ちゃんに申し訳ない。
亜里沙ちゃんだって、負けないくらいに可愛いんだから。
そもそも、2人はタイプが違う訳だし。
「紅茶で良い?」
「ハッ……お、お構いなく」
「ふふ、構うよ」
栞ちゃんが笑ってくれる。
良かった。もしかしたら、梶野くんと付き合って、どっか無理をしているんじゃないかと思ったけど……幸せなのかな?
「えっ、私の顔に何か付いている?」
「あっ、いや……栞ちゃんは、やっぱり可愛いなって」
「へっ?……あ、ありがとう。でも、この髪の色、似合ってないよね?」
「栞ちゃんは、栞ちゃんだよ。大丈夫」
僕が言うと、サッと視線を逸らされた。
し、しまった、さすがにキモいと思われたか。
ほら、何か手で口元を押さえて、吐き気を催しているんじゃないか?
「……ごめんね」
ほら、何か涙目になっているし。
もう、余計なことは言わないでおこう。
「どうぞ、召し上がって」
「い、いただきます」
僕は緊張しながら、クッキーをつまみ。
カリッ、と。
「……美味しい」
「本当に?」
「これ、お店で出せるよ。冗談抜きで」
「そ、そこまで言われると、照れちゃうな」
栞ちゃんは手で赤く染まった頬をあおぐ。
その仕草のいちいちが可愛いな。
「あっ……」
「どうしたの?」
「う、ううん、何でもない」
僕は苦笑しつつ、
ま、まずい……
栞ちゃんが、僕の幼馴染が可愛すぎて……
ビンビン!
……テーブルの下で、僕のムスコが思い切り元気になってしまっている!
「次郎くん」
「な、なに?」
「楽しい……かな?」
「も、もちろんだよ」
「良かった……私も、楽しいよ」
栞ちゃんは微笑みつつ、紅茶をすすった。
どうやら学校以外でも、神様は僕に試練を与えたいらしい。
暴発まで、およそ30分。
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