第10話 キスは甘いけど油断は禁物

 放課後。


 僕と亜里沙ちゃんは、学校から手を繋いで彼女の家に向かっていた。


 もう、キスもエッチもしたのに。


 手を繋ぐことが、こんなに恥ずかしくてドキドキするだなんて。


 けど、僕の手をきゅっと、どこかすがるように握って来る彼女を見ていると。


 ちゃんと、僕が守ってあげなくてはという気持ちにさせられる。


「どうぞ、入って」


 亜里沙ちゃんの家に入るのは、初めてじゃない。


 けど、やはり何度来ても、緊張する。


「何か飲む?」


「いや、そこまで喉は渇いていないかな」


「そんなに早くあたしとエッチしたいの?」


 僕の腕に抱き付いたまま、亜里沙ちゃんが言う。


「ま、まあ……しばらく、おあずけだったんで」


「まだ1週間経っていないよ?」


「じゃ、じゃあ、我慢を……」


「なんてウーソ!」


 むちゅっ、とキスをされる。


「ちゅ~~~~~~~~~~!」


 僕は軽く窒息しかけた。


「……ぷはっ! ねえ、キスの息止め選手権やってみない?」


「えっ?」


「はい、よーい、スタート!」


 それは唐突に始まった。


 僕は心の準備が出来ぬまま、また亜里沙ちゃんにキスをされる。


「んちゅうううぅ…………………………♡」


「むぐぐぐぐ…………………………」


 夢中でキスをする亜里沙ちゃん。


 一方、僕は段々と視界が揺らいできた。


 あ、やばっ。


 プツリ、と意識が途切れた。




      ◇




 ふと目を覚ますと、巨大な山が2つあった。


「あ、ジロー。起きた?」


 そこから、亜里沙ちゃんが顔を覗かせる。


「……もしかして、僕って気絶していた?」


「うん。リビングまで運ぶの、大変だったよ~」


「ご、ごめん」


「ううん、あたしが悪いの。ジロー、ごめんね」


「いや、そんな……」


「でも……こっちはビンビンね」


「えっ?」


 僕はふと、彼女の視線の先を追うと……


「……あっ」


 ズボンを突き破りそうなくらい、立ち上がっていた。


「もう、ここでしちゃおっか♡」


「で、でも、ここだと誰かに見られるかも……」


「大丈夫だって。あたし、もう我慢できないし。ジローもそうでしょ?」


「ま、まあ……」


 今にも破裂しそうなくらいだし。


「じゃあ、今度はこっちの方にキスを……」


 ガチャリ。


「ただいま~」


 玄関先からの声に、ビクッとした。


「げっ、ママが帰って来た!」


「えぇ!?」


 僕たちは、慌てて身なりを整える。


 リビングの扉が開き、


「亜里沙、いるの~?……って、あら?」


 初めて見る亜里沙ちゃんのお母さんは、とても美人だ。


 髪は淡く染めた茶色で、全体的に清楚な雰囲気だ。


 亜里沙ちゃんとあまり似ていないのかなと思ったけど……胸が大きい所はそっくりだった。


「もしかして、この子がジローくん?」


「う、うん。そうだよ、ママ」


「は、初めまして。戸川次郎とがわじろうです」


「初めまして。いつも、亜里沙がお世話になっちゃって」


「い、いえ、そんな……」


「ちょっと、ジロー。もしかして、ママに見惚れているの?」


 亜里沙ちゃんがジト目を向けて来る。


「ち、違うよ!」


「うふふ、嬉しいわ~」


「もう、ママのバカ!」




      ◇




 その後、亜里沙ちゃんのお母さんがお茶を入れてくれて、一緒に雑談をかわした。


「ジロー、今日はごめんね。その……スッキリさせてあげられなくて……」


 玄関先で、亜里沙ちゃんがこそっと言った。


「いや、仕方ないよ……」


 本当はだいぶ辛いけど。


「ねえ、せっかくだから、やっぱりそのまま溜めてくれたりする?」


「えっ?」


「その代わり、週末は……あたしに思い切り注いでいいから」


 ゴクリ。


「……わ、分かった」


「ありがとう」


 亜里沙ちゃんはそう言って、家の中をチラッと見る。


 お母さんがいないことを確認すると、


「またね、ジロー」


 ちゅっ♡


「……うん、また」


 亜里沙ちゃんは、笑顔で手を振って見送ってくれた。


 少し不完全燃焼だけど、それでも温かい物を抱えながら、僕は自宅へと向かう。


「よし、頑張って我慢を……」


 その時、ポケットでスマホが震えた。


「んっ?」


 僕は手に取って見る。


『次郎くん、この前に言った、手作りのお菓子を食べさせてあげるって約束だけど……明日とかどうかな? 急かもしれないけど……』


 栞ちゃんからのメッセだった。


 明日か……まあ、特に予定も無いし……


『うん、分かった。大丈夫だよ』


『本当に? ありがとう。じゃあ、楽しみにしているね』


『こちらこそ』


 栞ちゃんとのやりとりを終えると、暗くなった空を見上げる。


 あの一件で、彼女との関係は壊れてしまうかと思ったけど。


 こんな風に、また前みたいに会話して、一緒に過ごすことが出来て嬉しく思う。


 まあもちろん、お互いに恋人がいる身だから、間違いは起こしちゃいけないけど。


「さて、帰りますか」


 夜道は暗いけど、僕は明るく一歩を踏み出した。







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