第8話 あたしまで、こんな奴に……

 オ◯禁を始めてから、3日が経過した。


 3日坊主という言葉もあるくらいだし。


 ここで己に負けないように、踏ん張らないと。


「よし、気を紛らわせるために、勉強をしよう」


 僕は自分の部屋の勉強机に向かい、教科書とノートを開く。


 さて、やるぞとシャーペンを持った時。


 スマホが震えた。


「えっ?」


 電話だった。


 ディスプレイに浮かぶのは……


「……はい、もしもし」


『……あ、ジロー?』


 いつも元気な亜里沙ちゃんの声が、この時ばかりは何だか少し弱々しかった。


「亜里沙ちゃん、どうしたの?」


『特別、用事がある訳じゃないんだけど……オ◯禁、ちゃんと続いている?』


「う、うん。もちろんだよ。今も気を紛らわすために、勉強をしようかと思って」


『そっか。ジローは偉いね』


「いや、そんな。亜里沙ちゃんはどうしているの?」


『あたしは……ちょっと、ヤバくて』


「えっ?」


『自分から言い出したことだし、ちゃんと我慢しなくちゃって思って。でも、ずっとムラムラしているし、頭がグルグル回って来るし……おパンツは、トロトロだし』


「ト、トロトロ……」


 僕は思わず、ゴクリと息を呑む。


『今もこうして、ジローと喋っているだけで……溢れて来ちゃって』


「あ、亜里沙ちゃん、あまり無理しないで良いよ。言い出しっぺだからって……」


『ううん、我慢する。せっかく、ここまで来たんだし。あと4日だもん』


「まあ、そうだね……」


『…………』


「亜里沙ちゃん?」


『……あっ、ごめん。いま、ジローの声聞いて性欲ヤバくなって……ちょっと、枕思い切り噛んでた』


「そ、そこまで……じゃ、じゃあ、もう電話は終わりにしよう」


『うん……大好き』


「ぼ、僕もだよ」


 不意打ちに動揺しつつも、何とか言葉を返す。


『えへへ……じゃあ、おやすみ』


「うん、おやすみ」


 そして、僕らは通話を終えた。


「……亜里沙ちゃん、あまり無理しないでね」


 もう通話は終えているけど、僕はスマホ越しに彼女に語りかけるように言った。




      ◇




 朝から教室は賑やかだった。


「でさ~、新作のネイルがさ~……」


 亜里沙は同じギャルの友人たちと一緒にいた。


「ん? アリサ、どしたの? 何かさっきから、暗めな顔してっけど」


「えっ? いや、その……」


「今日、生理?」


「いや、そういう訳じゃ……」


「じゃあ、純粋にウ◯コしたいとか?」


「ちょっと、下品だし~」


「あはは」


 ギャル友たちが笑って言う。


「……ごめん、ちょっとトイレ」


「あまり無理すんなよ~」


 からかい交じりの言葉をかけられつつ、亜里沙は教室から出た。


(やばっ……予想以上に我慢の限界がキテる……今ちょっと人に触れられただけでも……まずいかも)


 亜里沙はわずかに吐息を弾ませつつ、トイレへと向かう。


 少し顔をうつむけていたせいだろうか。


 前から来る誰かと肩がぶつかってしまう。


 瞬間、


「んくッ!?」


 亜里沙はビクン、と自らの体が反応するのを感じた。


「……ってぇ~。おい、気を付けろよ」


 そう言った相手は、


「おっ、つーかアリサじゃんか。お前、何をボケッとしてんだよ」


 梶野だった。


(最悪……よりにもよって、こいつとか……)


「てか、息荒くね? もしかして、発情してんのか?」


「は、はぁ? 誰が……」


「どうせ、あのヘタレな地味メガネ野郎がエッチド下手で満足出来てないんだろ? 何なら、俺がまた可愛がってやろうか?」


「はっ、冗談はよしてよ。ジローの方が、あんたの100倍上手よ。チ◯コだって、すごく大きいし」


 亜里沙が言うと、


「……ちっ」


 梶野は舌打ちをする。


「お前は本当に可愛げがないな。栞なんて、俺の言うことを何でも聞いてくれるぞ?」


「あっそ……」


「それに比べてお前は付き合っていた時も、俺の言うことを聞かずにリクエストばかり……まあ、途中からしおらしくなったけどな」


「ハッ、あんたのがあまりにも粗末すぎて、あたしのリクエストに応えるのが無理って分かったからね」


「……テメェ、ぶっ飛ばすぞ?」


 梶野が睨みを利かせる。


「正気? ここは学校よ? 停学になりたいの?」


「ちょっとした停学くらい、構わねえよ……まあ、俺の名に傷が付くのは困るけどな」


「もうとっくに汚れてるよ、あんたの名前は」


「黙れよ」


 怒った梶野が、とうとう手を出す。


 亜里沙は身構えるが、顔を殴られることは無かった。


 その代わり、奴の手が伸びたのは、亜里沙の豊満すぎる胸だった。


 先っちょをつねる。


 ぐりっ、と。


「――んあああああああああぁ!?」


 亜里沙は思わず嬌声きょうせいを張り上げてしまう。


 しかし、それは梶野にとっても想定外だったようで、


「お、おまっ、声がデケえよ! どんだけ欲求不満だったんだ!?」


 そう言う彼の前で、亜里沙は床にへたれこむ。


 パンツと、そして廊下も濡れてることが分かった。


 やば、泣きそう……


「……ごめんね、ジロー」


 あたしまで、こんな奴に……


 彼に対して申し訳なくて。


 自分が情けなくて、涙がこぼれる。


「……ちょっと、アリサ! 大丈夫!?」


 背後から、ギャル友たちが駆け寄って来た。


「って、梶野! あんた、亜里沙に何をちょっかい出してんの!」


「ち、ちげえよ、俺は……」


「失せろ、クズ野郎!」


「……ちっ」


 梶野は大人しくその場から立ち去って行く。


「アリサ、あんた……」


「……うぅ、ごめん」


「良いって、気にすんな。ミカコ、アリサのトイレに付き添ったげて」


「りょっ」


「あたしら、掃除しておくから」


「……ごめん、ユウナ」


「だから、気にするなって。掃除上手のトモエがいるし」


「ブイブイ~」


 仲間たちの明るい笑顔に見守られて、亜里沙はまた涙をこぼしてしまう。


「てか、亜里沙ってばおもっ。やっぱり、ウチらの中で一番の巨乳だから」


「いや、この学園で1番だよ」


「つーか学園はおろか、この界隈で一番の爆乳だろ。もう、3ケタ乗った?」


「……今度、計ろうと思っていたの」


「くぅ~、彼氏くんが喜ぶんじゃない? ジローちゃんだっけ?」


「……うん」


 彼の名前を聞いてその顔を思い浮べると、自然と胸の内がほっこり温かくなった。







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