第6話 気まずくなっていた幼馴染と……

「じゃあ、ジロー。今日はありがとね」


 自宅の玄関先にて、亜里沙ありさちゃんが言う。


「う、うん。こちらこそ……」


「ジロー、この短時間で何かやつれた?」


「そりゃあ、まあ……たっぷりと搾り取られたので」


 僕は苦笑しながら言う。


「ごめんね。だって、あたしも1週間、禁欲しないとだから……ジローのいっぱい欲しかったの」


「そ、そっか」


「ジローが頑張ってくれたから、当分は満足したよ」


「良かったよ。服をプレゼントしてもらったし、少しはお返し出来たかな?」


「むしろ、だいぶ余分にもらったかも♡」


「いやいや……」


「じゃあ……またね」


 そう言って、亜里沙ちゃんは僕の手を握った。


「うん、またね」


 お互いに名残惜しく思いながら、ゆっくりと手を離す。


 僕が家の門を出て離れて行く間、亜里沙ちゃんは見えなくなるまで手を振ってくれていた。


 正直、亜里沙ちゃんを見ると、ムラムラして股間の辺りが落ち着かないんだけど。


 今この時は、ひたすら胸のドキドキが止まらなくて。


 心が温まるようだった。




      ◇




 今朝の目覚めはとても良かった。


 昨日、亜里沙ちゃんと散々エッチしたおかげですごく疲れていて。


 けど、そのおかげでぐっすり眠ることが出来た。


 だから、今朝はとてもスッキリした気持ちだ。


 僕は顔を洗い、朝食を済ませる。


 身支度を整えると、


「行って来ます」


 家を出た。


 今日も快晴だ。


 空を見上げつつ、その場で深呼吸をする。


「さてと……」


 家の門を出た時。


「……あっ」


 ちょうど同じタイミングで、となりの家から栞ちゃんが出て来た。


 お互いに、その場で固まってしまう。


「……お、おはよう」


 栞ちゃんが言う。


「う、うん。おはよう」


 少し、気まずい沈黙が流れる。


「……じゃあ、僕は先に行くので」


 僕は早足でその場から立ち去ろうとした。


「ま、待って、次郎くん」


「えっ?」


 僕は立ち止まる。


 振り向くと、栞ちゃんが少し必死な顔をしているように見えた。


「ど、どうしたの?」


「あ、その……き、昨日、一緒にいた……あの可愛い人は……」


「ああ……須山亜里沙すやまありささんって言うんだ」


「もう、付き合っているの?」


「ま、まあ、そうだね」


 僕は複雑な想いを抱えながら、ぎこちなく頷く。


「そうなんだ……」


「栞ちゃんも、梶野くんと……付き合っているんだよね?」


「……そう、だね」


 栞ちゃんの返答は少し歯切れが悪い。


「今さらだけど、イメチェンしたんだね」


 僕は言う。


「う、うん。やっぱり、似合わないかな?」


「そんなことないよ。栞ちゃんは、元が可愛いから。何をしても似合う」


「次郎くん……」


「あ、ちなみにそれは、ピアス?」


「ううん、イヤリングだよ」


「あ、そうなんだ……良かった」


 僕が胸に手を置いてきぼり言うと、


「ふふ。私のこと、まだそんな風に気に掛けてくれるんだ」


 栞ちゃんは髪を耳にかけて微笑んだ。


「ま、まあ……幼馴染だから。けど、鬱陶うっとうしかったら、もうやめるよ。いくら幼馴染だからって、ずっと一緒にいられる訳じゃないって……分かっているから」


 僕は肩をすくめて言う。


「じゃ、じゃあ、僕はこれで」


「次郎くん、最後にもう1つだけ、聞いても良い?」


「えっ、何かな?」


「その、もう彼女さんとは……エッチしたの?」


 思わぬ問いかけに、一瞬言葉に詰まった。


「……し、したよ」


「そう、なんだ……」


 栞ちゃんは胸の前でキュッと手を握る。


「彼女さん、ちゃんと気持ち良いって言ってくれた?」


「へっ?」


「ご、ごめん、変なことを聞いちゃって」


「いや、まあ……僕の、何か大きいらしくて……気持ち良いって喜んでくれたよ」


「へ、へぇ~……」


 心なしか、栞ちゃんの視線が下がったような気がした。


 栞ちゃんはどうだったの?


 なんて、聞き返すのは最低だろうか?


「……うらやましい」


「えっ?」


「ううん、何でもないの」


 栞ちゃんは淡く微笑む。


「ごめんね、呼び止めちゃって」


「いや、良いよ」


「次郎くん。私たち、それぞれ恋人が出来ちゃったけど……これからも、幼馴染でいてくれる?」


「も、もちろんだよ」


「じゃあ、今度……お菓子作るから、食べに来て」


「栞ちゃん、お菓子作り得意だもんね」


「うん」


「はは。何だかこうして、久しぶりに栞ちゃんと喋れて……嬉しかったよ」


「次郎くん……私の方こそ、嬉しかったよ」


「やっぱり、一緒に行く?」


「えっ?」


「も、もちろん、嫌なら良いけど……」


「そんなことないよ……一緒に行こ」


 栞ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれる。


 そんな彼女を見て、僕も少しだけ笑えた。







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