第4話 初デートは、どこまでも優しい彼女にリードされて……

 今までの僕は、基本的に休日は家に引きこもってばかりいた。


 自分の部屋の中で、スマホとかPCでネットして、マンガを読んで自分の世界に引きこもる。


 そんな下らなく冴えない日々をずっと過ごして来た。


 けど、今の僕は……


「……うぅ」


 久しぶりに街に出て、人の波に触れると、何だかとても怖い気持ちだ。


 どこまでも臆病な僕は、平和で傷付かない、自分の世界に帰りたいと願ってしまう。


「――ジロー!」


 暗くモヤモヤしていた思考が、一気に弾けるように、明るい声が響いた。


 僕は振り向く。


「お待たせ」


 今まで、制服姿しか見たことなかった。


 初めて見る私服姿の須山さんは、とても可愛かった。


「んっ? どうしたの?」


「あ、いや……須山さん、やっぱりオシャレだなって」


「まあね~」


「それに比べて、僕は……申し訳ない」


「良いよ、そんなの気にしなくて。大切なのは中身だし。そのTシャツのよれよれ具合とか、可愛いよ」


「か、可愛い……す、須山さんこそ、可愛いと言うか……」


「何それ、嬉しいんだけど」


 須山さんは、僕の方に顔を寄せて来た。


「えっ、何?」


「大丈夫だよ、あたしが付いているから」


「へっ?」


「行こうか」


 須山さんが僕の手を引いてくれる。


「適当に、街ブラしよ?」


「う、うん」


 男として、情けないけど。


 僕は慣れた様子の須山さんに手を引かれて、街を歩き出した。




      ◇




 須山さんと街をブラブラしている内に、すぐランチ時となった。


「ジロー、何が食べたい?」


「えっ? す、須山さんは何が食べたい?」


 まずい、質問に質問で返してしまった。


「う~ん……」


 須山さんは、人差し指を唇において、辺りを見渡す。


「あっ……良いの、みーっけ」


 僕は彼女の視線の先を追う。


 そこにあったのは……


「……ラーメン屋?」


「ジロー、ラーメンは好き?」


「ま、まあ、普通に好きだけど……須山さんは?」


「好きだよ。友達とも普通に行くし」


「えっ、そうなんだ」


「多い時は、放課後に週4くらいで通っていたし」


「す、すごいね……」


「おかげで、太っちゃった」


「え、いや、ちゃんとお腹とかへっこんでるし……」


「じゃなくて、コ・コ♡」


 須山さんは、自身の豊満すぎる胸を指差して言う。


「あっ……」


 僕は納得し絶句した。


「ジロー♡」


 須山さんが、僕の腕に抱き付く。


 ジャイアントマウンテンに挟まれた。


「行こっ?」


「は、はい……」




      ◇


「らっしゃっせ~!」


 店内は元気の良い声が響いている。


「僕、ラーメン屋に来るの、久しぶりかも」


「そうなの? 友達とかと来ない?」


「う、うん。友達、いないから。いたのは幼馴染の栞ちゃ……」


 言いかけて、僕は停止する。


 胸がズキンと痛んだ。


 ぴとっ。


「ひゃッ!?」


 僕のほっぺに、冷たいモノが触れた。


「そんな顔しないの」


 須山さんが、笑顔で言う。


 僕のほっぺに、水のコップを当てていた。


「ご、ごめん」


「謝らなくても良いよ。で、何を頼む?」


「こ、ここは何系なんだろう?」


「こってり系みたいだね。あたしの好物ぅ~」


「そうなんだ。女子はあっさりが好きなのかと……」


「ノンノン、それは男子の勝手なイメージだよ」


「そ、そうだね、ごめん」


「あたし、好きなんだ……濃厚でドロドロしたやつ……いつも欲してるの」


 須山さんは、きっとラーメンのことを言っているだけ。


 なのに、僕の方を見つめて……何で、こんなにドキドキさせられるんだ?


「じゃ、じゃあ、僕も……濃厚なやつを」


「え、下ネタ?」


「す、須山さんが言ったから……」


「ぷはっ、冗談だよ。ジローって、本当に可愛いよね」


「な、情けない」


「可愛い♡」


「で、でも、男のくせに可愛いって……何か情けなくない?」


「そんなことないよ。むしろ、最近はオラオラ系とか流行らないし」


「そうなの? 須山さんみたいなギャルは、てっきりそういった系の人が好きなのかと……」


「ジロー」


 須山さんの目が、真剣になった。


 僕はギクリとする。


 しまった、失言だったか?


「ご、ごめん……」


「……いま、あたしの目に映っているのは……ジローだけだよ?」


 そう言って、また優しく微笑んでくれる。


「あたしは情けないあんたのことが……好き」


 ドクン、と胸が高鳴った。


「……あ、ありがとうございます」


 つい、メニューで顔を隠してしまう。


「店員さん、呼ぶね」


 須山さんは僕の分まで注文をしてくれる。


 本当に、僕は男として情けないと思う。


 このままじゃ、イケないとは思いつつも……


「ラーメン食べ終わったら、服でも見に行こうか」


「う、うん」


「あたしがジローに似合う可愛いの、選んだげる」


 僕はこの優しいギャルの須山さんに、甘えてしまいそうだ。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る