第2話 優しいギャルと初体験をした

 思えば、小さい頃はよく栞ちゃんの部屋に行って遊んだけど。


 中学生になると、あまり行かなくなった。


 僕みたいな冴えない男子は、栞ちゃん以外に仲の良い女子などおらず。


 だから、女の子の部屋に入るだなんて、本当に久しぶりだった。


「どうぞ、遠慮せずに入って」


「お、お邪魔します……」


 僕はいま、初めて喋ったばかりの女子の家にいる。


 しかも、ギャルだ。


 けど、その部屋は意外にも女の子らしくちゃんときれいにしてある。


 何となく、ギャルの部屋は荒れているイメージだったから。


 化粧台があって、化粧品がたくさんあるけど、きちんと整理されている。


「じゃあ、ここ座って」


 ベッドに腰を掛けた須山さんが、となりをポンポンと叩く。


 当然、僕は躊躇ちゅうちょした。


 決して嫌と言う訳ではなく、本当に良いのかと。


「あ、あの、須山さん」


「んっ?」


「どうして、僕をこんな風に……」


「……あたしさ、友達とかにもさっきみたいに、笑って話したけど」


 須山さんは言う。


「本当は、ずっと傷付いていたんだ。初体験が、あんな感じになっちゃって」


「須山さん……」


「あたしね、こんなギャルだけど。チャラチャラした男よりも、本当はジローみたいな男の子が好きなんだ」


「そう……なの?」


「うん。でも、あたしなんて避けられるだけだと思って、仕方なくあのチャラ男に身をゆだねたら……ね?」


 須山さんの瞳が、少し悲しげに歪む。


「須山さん……」


 僕は自然と、彼女に寄り添っていた。


「ぼ、僕なんかで、須山さんの心を……癒せるの?」


「もちろんだよ。だってジロー、さっきメガネ取ったら、可愛い顔していたし」


「そ、そんなことは……」


「ねえ、もう1回見せてよ」


「ちょ、ちょっとだけなら……」


 可愛いギャル子さんに褒められて、僕は少し良い気になってしまう。


 まあ、これくらいならバチは当たらないだろう。


 須山さんは僕のメガネを取った。


 そして――唇がねっとり柔らかく、覆われる。


 僕は一瞬、世界が止まったように感じた。


 ちゅく、ちゅく、と少しエッチな音が鳴る。


 思考停止している間に、須山さんがゆっくりと唇を離す。


「……ごめんね、ジローがあまりにも可愛いから……キスは初めて……だよね?」


「う、うん……」


「ど、どうだった?」


「……や、柔らかいです」


「ふふ……ねえ、もう1回しても良い?」


「は、はい……」


 童貞の僕は、既に経験済みな彼女に身を委ねる。


「あ、須山さん。僕、避妊具も何も……」


「大丈夫、あたしがちゃんと用意してあるから。いつか本当に好きな人が出来たら、この部屋に呼んで……エッチしたかったの」


 そんな健気な言葉に、僕の心は揺れ動く。


「あの、やっぱりメガネ、返してもらって良い?」


「でも、エッチの時、邪魔じゃない?」


「かもしれないけど……須山さんのこと、ちゃんと見ていたいんだ」


 我ながら、何だか恥ずかしい発言だけど。


「や、やだ、もう……バカ」


 受け取ったメガネをかけると、須山さんは頬を赤らめて、軽く横を向いていた。


「あ、あの。今度は僕の方から……キ、キスを……」


「……うん、シて?」


 僕は自分からキスをすると、ゆっくりと彼女をベッドに押し倒す。


 そこからは、全て人生で初めてのことばかりだった。




      ◇




「はぁ~、はぁ~……」


 事後、僕はベッドの上で吐息を乱す。


 こ、これが……エッチ。


 まさか、こんなに疲れるだなんて。


 けど、すごく気持ち良かった。


 僕のとなりでは、須山さんがベッドにうつ伏せになっている。


「あ、あの、須山さん……」


「……サイテーなんだけど」


 その言葉に身が揺らぐ。


「……えっ?」


 彼女は顔を上げると、僕を睨む。


「ご、ごご、ごめん。や、やっぱり、童貞だから下手くそで……」


 僕はにわかに焦る。


「あんたさ、童貞のくせに……めっちゃデカくて上手かったんだけど!」


「ごめんなさい!……へっ?」


 僕は目をパチクリとする。


「元カレの粗◯ンで、半ば強引に処女膜破られた時は何も感じなかったのに……あんたのデカいの奥まで来て……めちゃ痛かった」


「ご、ごめんなさい」


「でも、すぐに気持ち良くなった……良かった、ジローに初めての奥を捧げられて」


 須山さんはニコリと微笑んで、僕の頬に手を添える。


「そ、そんな……」


「で、本当は童貞じゃないんでしょ? 噂の童貞詐欺ってやつ?」


「ち、違うよ! 僕がエッチしたのは、須山さんが初めてで……」


 慌てて弁明する僕のことを、須山さんはジーッと見つめている。


 けど、すぐ笑顔になった。


「そっか」


 そして、僕の手に触れる。


「ぼ、僕は童貞だけど、何とか須山さんに気持ち良くなってもらいたくて」


「それはどうして?」


「だ、だって……僕のことを、救ってくれたから」


「本当に? 癒された?」


「うん、すごく」


「それは良かった」


 須山さんは、また優しく微笑んでくれる。


「あたしの方こそ、ジローのおかげで癒されたよ。これが本当の……あたしの初体験だ」


「須山さん……」


「ねえ、ジロー……」


 須山さんは起き上がると、少しモジモジとする。


「……あたしと付き合って」


「えっ?」


「って、ごめん……いきなり言われても、困るよね?」


「あ、その……」


「しょ、所詮、あたしはギャルだし……ジローには、ふさわしくないっていうか……」


「そ、そんなことはないよ。須山さんは僕にはもったいないくらい、可愛くて素敵な女子だし」


「ジロー……」


「でも、僕は栞ちゃんのことが好きだったのに、すぐに須山さんに乗り換えるだなんて……何か申し訳ないなって」


「ふふ、バカ。そうやって遠慮して、損しちゃうんだから」


 同じく体を起こした僕のことを、須山さんは優しく撫でてくれる。


「じゃあさ、とりあえず(仮)ってことにしない?」


「(仮)?」


「うん。今度デートしよう。それで正式に付き合うかどうか……ジローが決めてよ」


「わ、分かった」


「ちなみに、それまでエッチはお預けだから……ギャルだからって、そんなに尻軽じゃないんだよ?」


 須山さんは言う。


「う、うん」


「今も本当はジローのおっきいの、もっと欲しいけど……大切な初体験の思い出だから、ここで我慢しておく」


「須山さんって……何ていうか……」


「エロいって思う?」


「偉いね」


「何よ、それ」


 デコピンされる。


「あいたっ」


「ふふ、ジローってば」


 須山さんは、とても素敵な微笑みを見せてくれた。







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