医者か薬剤師

「じゃあ…まず、今回岡は“医療関係者”って言葉でぼかして答えた。そこから岡がその時なんでそう答えたかの意図が見えてくる」

「意図…」

「一般的に医療関係者って答える場合、3種類ぐらいだと思うんだよね。1つが一般的じゃない医療系の仕事を指している場合。これが一番多い理由かもしれない。例えば医療技術職系のお仕事。医療技術職は臨床検査技師やその漫画の放射線技師などの仕事。これらは一般的に相手に知られていない可能性が高いからって理由でそう答える可能性が高い。けど、シャンプーはその漫画読んでるから知ってることも多いだろうし、興味があるわけだから」

「あ、そうですね、もしわたしが知らないお仕事だったら聞きたいですし、岡くんもおしゃべりだから教えてくれると思います」

「てことは、医療技術者などの仕事を“医療関係者”ってシャンプーに言う必要はない。で残りの可能性はステータスだと思う」

「ステータス?」

「一般的に言って、医者や薬剤師は難関受験で、成れる人って言うのはごく限られた高学歴者であり、高所得者だ。つまりとらえ方によっては自慢になる。だからあえて言わないってこともあると思う。これが2つ目」

「うんうん」

「3つ目の可能性としてはその逆で、資格が要らない仕事。たとえば清掃とか配膳とか。資格が要らない仕事なら、資格必須の仕事が多い病院内のヒエラルキー的にはどうしても高くないはず。…あんまりこんなことを思ってはいけないとは思うんだけどね」

「…わかります。職業に上も下もありません。ただ、実際問題としてそのヒエラルキーは理解できます。だからどうぞ、続けてください」

「うん。で、この場合、プライドが高い人間の場合、あえて“医療関係者”と言うかもしれない。隠したいって思うのならね。けど、岡はそういう人間じゃない。岡ならたぶん何とも思わずにそのことをシャンプーに伝えるはず」


 岡は自慢したりしないし、プライドが高い訳でもない。誰にでも平等に接する。だからこの場合に医療関係者とは言わないと浩然は確信している。


「そうだと思います」

 シャンプーもこの意見に同意した。


 もし仮に柏木ブルーの言うことが本当で岡が進学校へ出ている場合、岡自身プライドがあるならそのことを言ったはずだ。だがそんなこと一言も聞いたことがない。むしろ隠していたという方がしっくりくるぐらいだ。


「で、それ以外の、管理栄養士や看護師、医療事務ならそのままシャンプーに言うはず。さっきの医療技術者とは違って一般的だし、自慢に相手が感じることもあまりないだろうし、あえて隠す必要もないというか…。とにかく、医療関係者っていうより、これらの仕事については直接言ったほうが簡単だからね」

 シャンプーは眼をぱちぱちさせ、自分のあごを持ち上げるようなポージングをしながら、こう言った。

「なるほど、だから親は医者か薬剤師じゃないかって言ったんですね。確かに、岡くんの性格からするとそうかも。ふふふっ、それにしても、浩然くんて、なんでそんなに洞察力に優れているんですか?」

「え? いやいやそんなことないよ」

 浩然は何の気なしにそう答えた。洞察力なんて考えたことがなかった。


「でも…もしかしたら魚の小骨が原因かもな…」

「魚の小骨? ひっかかってるんですか?」



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