シャイ
昼になり、希が講堂に入ってきた。
「はい、これノート」
「ありがとって…その格好で来たのかよ」
昨日バイト先に午後に使うノートを忘れてきてしまった。そこで希が届けに来てくれたのだ。本当は断ったのだが、希が家に持ち帰ってしまい、授業に間に合わなくなる可能性もあったので届けてきてもらったのだ。
そして現れた希はバイト着だった。チャイナ服を来た男はさすがに目立つ。
「今日は2時半からだから」
あそこは基本アフタヌーンティーメインだから2時半出勤も多い。
前に座っていたシャンプーはその格好に眼を輝かして見ていた。吸い込まれていきそう。
「え、あれあの時の…?」
シャンプーに話しかけられ、希の顔が強ばる。そういえば、希は人見知りだった。
「中検のとき、希が走って案内した子だよ」
「え…、ああ、ども」
「あの時はありがとうございました!というか、素敵なお召し物ですね」
宝石でも見ているように、シャンプーの瞳は
「はじめまして、岡って言います」
岡がにっこりとあいさつする。
「…酒村希です」
ふだんはめちゃくちゃにめちゃくちゃ話すのに、なんでこんなところで、内気なんだ。
「せっかくなんでみんなでごはん行きませんか? 近くに中華屋さんがあるんです」
シャンプーが希を昼ごはんに誘う。
「いいね〜、行こうよ」
岡も賛同する。希は明らかに戸惑った表情をしている。
「忙しかったらまた今度でもいいぞ?」
と浩然は希に助け舟を出す。
「…浩然も行くの?」
「え、うん?」
「じゃあいいよ、行こう」
ということで、謎の4人で中華屋に繰り出した。
「ところで、やっぱりそんな恰好してるし浩然の友達なら、希くんは中国人なの?」
岡が希に聞く。
「僕はハーフです。国籍は日本だけど」
希はだいぶ慣れてきたが、まだまだ警戒中のような顔だった。
「じゃあ中国語しゃべれるんですか?」
シャンプーが希に近づく。希が少したじろいた。
「しゃべれますけど…」
「へえ、浩然と違ってしゃべることもできるんだ」
「…しゃべることも?」
「ああ、さっきこの二人にはばれた、聞いて解ること」
「なあ、浩然がどうして聞いて分かるか分かったのか知りたくない?」
「きいてわかるかわかったのか?」
「どうしておれが中国語のリスニングだけできるか解った理由知りたくない?」
「ああ、そういうこと」
そういうと、岡はかばんから先ほどのプリントを取り出し、説明する。すると、ぶっと噴き出した後、希が盛大に笑い出した。
「ねえね、浩然ってむっつりなの? なんでこういうワードに見事にひっかかってんの」
…うるさいなあ。
コンビニのような形の赤色の中華料理屋「台湾料理 長楽」が見えて来た。
「台湾料理ねえ…」
と希はぼそっとつぶやいた。
店に入ると、眼の前の本棚には週間少年漫画と週刊誌が置かれて、壁には「
希が、
「やっぱりね~」
と言った。
「は? 何が?」
岡とシャンプーが眼をぱちくりさせて聞く。
「台湾人じゃないね」
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