第678話 出立
泣き止んだクラルは憑き物が落ちたかのように明るい笑顔になる。
「ヨシノブ様、いつ帰られるのですか?」
「一応、こっちの準備も出来たし、明日には帰るかな?
クラルさんは準備いいかな?」
「いつでも大丈夫です。
嫁入り道具もちゃんと持ちましたよ!」
「いや、そこまで準備万端いらないかな?」
「いえ、いつ必要になるかわかりませんからね。
いつでも大丈夫です。」
「はぁ、まあいいか、荷物は輸送機に運んでおきましょう。」
「はい、ふつつかものですが宜しくお願いします♪」
満面の笑顔で出発を待ち望んでいるようだった。
一方、魔族側では・・・
「おいたわしや・・・クラル姫様になんと過酷な任務をお与えになるのだ。」
「それもこれも女供が自分の欲望の為に・・・」
魔族の男達は人族の領域に僅かな供で向かうクラルに憐憫の情を持っていた。
クラル自身は気付いていなかったが、魔王の血脈でありながら、優しさを兼ね備えたクラルに惹かれていた者は多かった。
クラル自身は日本人の感覚で接していただけなのだが、殺伐とした魔族の中ではそれは新鮮なものだった。
その為に今回の任務が発表された時には多くの貴族が反対の声をあげようとしていたのだが、太后リリスと自身の女家族に押さえつけられ、反対することすら出来なかった。
笑顔で出発しようとしているクラルを見て、その胸の内を勝手に想像して血の涙を流していた。
「我らのチカラが足りぬばかりに、クラル姫様を人質に出さすとは・・・」
「おお、なんと気丈に振る舞われておられるのか・・・
薄汚れた人族に与するなどどれだけの恥辱か・・・」
「許すまじ・・・」
男達には不穏な空気が流れていた。
その反面、女性達の中では・・・
「クラル姫様、女の子の顔になってますね。」
「あれは恋をしてるね。」
「やっぱりヨシノブ様にですよね?」
「そりゃそうでしょ、魔族の男達をご覧、チカラしか頭にないじゃないか、クラル姫様のようにお優しい御方が暴力しかない男に靡くわけないさ。」
「そういえば、食い気のファイも女の子になってたよね?」
「あの美味しい物にしか興味の無かった娘がねぇ〜」
「それほどいい男かね?」
「見た目じゃ頼りないかも?」
「こらこら、二人のお嬢様が惹かれているんだ、きっと素晴らしい方なんだよ。」
「まあ、こんなに良い物をいただけましたし。」
ヨシノブは貴族の婦人方に美容液と乳液をクラルが俺達の所に来る祝いという形をとり、贈っていたのだった。
「たしかにこれがいくらでもあるところに嫁ぐんだろ?
クラル姫様じゃなくても行きたいんじゃないかな。」
「私も行きたいかも。」
男達とは違い、ヨシノブに好意的になっていた女性陣はクラルの出立を微笑ましく眺めていたのだった。
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