第671話 化粧水

化粧水を受け取った女性達は喜んでいた。

現在ルーカス商会では客が殺到している為に貴族といえど中々買うことが出来ない。


そんな中、ヨシノブが全員に配ったのだ。

本来なら通常の化粧水でも満足できたのだ。


・・・しかし


化粧水を受け取った女性達は皆が宿に戻ったあと試してみることになる。


そしてそれは戻ることの出来ない道であった。


ヨシノブが配った化粧水はアマテラスの加護がこもった、言わば神水のような物だ。

塗った瞬間に全員がその効果を理解する。


肌が喉を鳴らして水を飲むかのように水分を吸収していく。

「これは・・・」

女性達はみずみずしい肌を手に入れる事が出来た。

その夜、歓喜の声が貴族の屋敷に木霊する。


だが、それは時間とともに失われていくのだった・・・


失望の中、ヨシノブの近くにいたファイの事を思い出す。

ファイはヨシノブの側にいるだけあって、化粧品を充分に使用している。

どう見てもファイの肌はみずみずしさを保ち、ハリも弾力すら感じられた。


ファイと友達であるルエナは翌朝に聞きに来ていた。

「ファイ、少し聞きたい事があるのだけど。」

「あールエナやっぱり来ましたか・・・」 

ファイはわかってたかのような表情を浮かべている。


「何よファイその顔は・・・」

「いやぁ〜たぶん来ると思ったんですよ。

化粧水の事でしょ?」

「わかるの!ねぇ、どうしたらファイみたいにみずみずしい肌を維持出来るの!」

「あははは・・・」

「笑って誤魔化さない!」

「でも、聞いてもどうしようもないよ。

それでも聞きたい?」

「教えてファイ!」


「化粧水は肌に水分をくれるけど、その後、美容液や乳液で整えてこそ、最上の状態を維持出来るのです。」

「美容液・・・乳液・・・」

「ヨシノブさん手製のそれはルーカス商会でも手には入らないのです。」

「そ、そんな、みずみずしい肌は一夜だけだと言うの・・・」

ルエナは崩れ落ちていた。

昨晩喜んだだけにその落差は酷いものだった。


「まあ、ルーカス商会でも通常品を売っていると思いますから、それで多少は維持できると思いますよ。」

あまりにも可哀想になりファイも声をかけづらい。

しかし、言葉の端から感じる違和感からファイが手製の品を入手していることに気付く。


「ファイ・・・なんで貴女はそれを手に入れているのですか?」

「えっ・・・なんのことでしょう。」

ルエナの嫉妬が明らかに自分に向いていることを感じでファイは吹けない口笛を吹きつつ目を逸らす。


「答えてくれるよね?」

ルエナにガッチリ肩を掴まれる。

「目、目が怖いです!」

「食い気しか無いファイの肌がなんでそんなに整っているのか・・・

友達だから教えてくれる・・・よね?」

ルエナの目に光が無い、ファイは誤魔化せない空気を感じる。


「私はヨシノブさんと友達ですから、その縁で用意してもらっているんです。

それにお屋敷だと、ヨシノブさんの手製が無くてもそれに準じる物もありますし・・・」

「なにそれ?ファイ貴女はどんな楽園に住んでいるの?

ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ。」

「ルエナ!しょ、正気を取り戻してください!」

「ファイは美味しい物があればいいんでしょ!なら美容液と乳液・・・いえ、化粧水も私に頂戴。」

「うーん、美味しい物も好きですけど、私も女の子ですから、私としても身だしなみぐらいは・・・」

「えっ?美味しいものにしか興味がないファイが身だしなみ?」

「ちょ、ちょっと酷くない?私だってちゃんとするんです。

それにヨシノブさんの所は女の子みんな肌のケアに気を使ってますから、私もしないと目立ってしまいますから・・・」

「ずるい・・・私も行く。」

「いやいや、ルエナは魔王城勤務でしょ!私みたいに自宅警備じゃないんだから、ヨシノブさんの所に行けないでしょう!」

「ううん、なんとかしてみせる、ファイもヨシノブさんに推薦しておいてくれる?」

「めんどく・・・」

「何か言ったかな?かな?かな?かな?」

「な、なんでもありません、ヨシノブさんに伝えておきます。」

ルエナは急ぎ魔王城に向かっていった。


「あー怖かった、ルエナにあんな一面があるなんて。

さて、約束しましたし、ヨシノブさんに伝えておきますか・・・」

ファイは友達でもあるルエナのためにヨシノブに推薦するのだった。


その結果、クラルの供としてルエナがその席を確保し、ヨシノブの屋敷に来ることになるのだった。


一方、ヨシノブの元に行くことの出来なかった女性はルーカス商会がもたらす通常の化粧品で我慢するしかない、女性はこぞって化粧品の確保に躍起になる。

「サタナス様!どうか輸入量の増加を!!」

「このままじゃ、妻に家に入れてもらえない、どうかこの要求書(注文書)にサインを!!」

サタナスの所に苦情と注文が山となり届くようになる。

「どうしてこうなったのだ・・・」

魔王は深い悩みを抱えてしまうのだった。

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