第672話 せめてもの慈悲を

魔王と会談もおえ、俺は帰ろうとしていた・・・

「ヨシノブさん、もう少しいたほうがいいんじゃないかな?」

ファイが言いにくそうに伝えてくる。

「えっ?会談も終えたし、もう帰ってもいいよね?」

「いやぁ〜絶対にこの地にトラブルが起きますからね。

その対処にもう少しいてほしいなぁなんて・・・」

「トラブルが起きる?それこそサッサと引き上げないとダメじゃないかな?」

俺はファイが言うことはよくわからないが、この国にトラブルが起きるなら巻き込まれる前に帰りたいと思っている。


「トラブルの原因がヨシノブさんと言うか、ヨシノブさんしか解決出来ないといいますか・・・」

「うにゅ、おとうさんが悪いのよ。

でも、おウチに帰るのは賛成なのよ。」

シモも何かに気づいているようだが、家に帰る気持ちが強いのでアッサリ帰りたいと伝えてくる。


「シモちゃん打ち合わせと違うよね。

ほら、もう少し残りましょ、って言うお約束でしょ?」

「にゅ・・・言われてみればそうなのよ!

でもね、シモ、ハルくんに会いたいのよ。」

「もう少し、我慢してもらえないかな?

ほら、お仕事出来るお姉ちゃんはカッコいいと思わない?」

「うにゅ、シモは出来るお姉ちゃんなのよ!」

二人のやり取りからファイがシモの言動を操ろうとしているのはバレバレだった。


「あー、ファイそういう小芝居はいいから、この後何が起きるって言うんだ?」

「化粧品です、ヨシノブさん手製の化粧水だけ渡して、それで終わりなんて、何処の悪魔ですか。

せめて既製品ぐらいは入荷出来るようにしてあげないと・・・」

ファイはため息混じりに言ってくる。


「悪魔って、ここ魔族の国じゃないの?」

「そんな些細な事はいいんです。

ヨシノブさんが悪いんですよ!少しは反省してください!」

「でも、化粧水でみんな喜んでいたんじゃ?」

「ヨシノブさんは化粧品について興味が無さすぎです!

継続して必要なのに1個だけなんて酷すぎますよ。」


「俺は使わないし・・・」

「しゃーらっぷ!

すぐに魔王様から交易についての使者が来るはずですから、それまでは待機しましょう。」

「うーん、そういう話なら・・・」

俺はファイの意見を聞いてしばらく滞在することにするのだが、使者は思ったより早く来た、魔王と対談した翌日の夜には目が血走ったリリスが来ていた。


「ヨシノブさん、少々お時間よろしいですか?」

先触れもなく滞在しているフォルサの屋敷にやってきたリリスに周囲は慌てていた。


「時間は大丈夫ですけど、マナー的にはいいんてすか?」

俺は慌てて対応しているメイドさんを見て質問する。

「ええ、よろしくは無いですがこれは緊急事態ですので致し方ないことかと。」

「緊急事態ですか?何があったのですか?」


リリスは一度身を正してから話を始める。

「まずはヨシノブさんから昨日いただいた化粧水の話ですが、販売が無いと言うのは本当ですか?」

「はい、予定してないですね、あれは自分への負担が多いので、知人ぐらいにしか配っていないのです。

まあ、化粧水自体は販売しますので、その点は安心してください。」


ヨシノブが安心しろと言ってもリリスには頭の痛い話だ、一度手製の品を味わった者が耐えられるのか・・・

しかし、話をこれで終えるわけにはいかない。


「あとお聞きしたいのですけど、化粧水の効能を維持する為に美容液と乳液というものがあると聞いた者がいるのですが、本当でしょうか?」

「俺も使い方はよく知らないのですが、あるみたいですね。」

俺はファイをチラリと見ると凄い勢いで頷いている。

俺がファイによそ見をしているとリリスは俺の肩をガッチリ持つ。


「それもいただけないかしら?」

リリスの目が怖かったので、俺は大人しく美容液と乳液を呼び出し、加護をこめてリリスに渡す。


「えーと、使い方はファイに聞いてもらえますか?」

「ありがとう。

・・・あら、私としたことがいただくだけになるところでしたわ。これをどうぞ。」

リリスは鈍く光る鉱石を渡してくるのだった・・・

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