第589話 杉本

異世界に行く前に杉本は砂原に呼ばれていた。

「杉本くん、君には異世界に行ってもらう。」

「私がですか?」

「そう、君にしか出来ない仕事だ。」

「光栄です。それでどのような事を?」

「1つは宮木総理がワシントン大統領と対談するだろう、その詳しい情報を持ち帰ること。

そして、2つ目こちらが大事だ、我らの支援国が異世界の物資を欲しがっている。

意味はわかるかね?」


「・・・国交を繋ぐように動けということですね。」

「その通りだ、今のままだと西側諸国だけが手に入れてしまう。

それは世界のバランス的に非常に問題である。」

「そうですね、西側だけが利益を得ることは良くないことですな。」

「まあ、その結果、我が党に利益が来るのは仕方ない話だがな。」

砂原はまだ得ていない利益を頭ではじき出す。


総理が弱腰外交をすれば、それを叩き政権を辞任に追い込む。

ヨシノブとかいう一般人を利用して、支援国とも交易をさせてやる。

その橋渡しで多額の資金が送られる事になったいた。


「杉本くん。君が帰ったら記者会見が待っているからな。

この仕事が済めば、君は英雄になれる。

頑張りたまえ。」

砂原は杉本の肩を叩く。

「任せてください、我が祖国の為にもこの仕事果たしてみせます。」

「杉本くん、気をつけたまえ、君の祖国は一応日本だろ?」

「砂原さん、知っているのに言わないでください、国籍はどうあれ、気持ちは・・・」

「気持ちはしまっておきなさい、愚かな日本人にバレたらどうするんだ?」

「マスコミを抑えてますから、どうとでもなりますよ。」

「それでもだ、暫くうるさくなるのがイヤだからな、無駄に煽るな。」

「はい、気をつけておきます。」

杉本は砂原に注意されるものの、欠片も気にしない、自分は愛する祖国のために日本を停滞させ、祖国に利益をもたらすのだ。



ヨシノブとの挨拶が終わり、自室に案内される。

「なんで子供がエスコートしているんだ、こんな時は美女が案内するものだろ。」

杉本はブツブツ文句を言う。

だが、些細な事で怒っても仕方ない、自分には崇高な使命がある。

気を取り直し、現地に滞在するフユに情報収集に向う。


「えっ、ヨシノブさんとの交渉の手助けをしろと?」

「当然だろ、政府の為に力を貸せ。」

「無理です。それに杉本さんは野党ですよね、それって本当に政府の指示ですか?」

「君は国会議員の言葉を何だと思っているんだ。」

「与党と野党では、指示が違う事も多々ありますから。

私は政府の見解に従う・・・つもりかも知れません。」

フユは杉本に従うつもりなどない、そもそも、ヨシノブと交渉材料など無いのだ。

個人的友好関係を作り、妥協点を見つけるこれが正しい道と理解していたが、何を考えているかわからない杉本に教えるつもりもなかった。


「使えないやつだ、このことは帰って問題にさせてもらう。

今後出世出来ると思うなよ。」

杉本は捨て台詞を吐いてフユから離れていく。


「出世って、私はここに残るつもりなんですけどねぇ・・・」

フユの心に響くものは欠片もなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る