第557話 モトキと面会
フユが扉の中に入ると目を輝かせて待っているモトキの姿があった・・・
「ゲッ!気持ち悪い・・・」
思わずフユが声を漏らす。
「フユさん、もう帰りますか?」
オットーは別に会いたくて来ているわけでは無いのだ、フユが帰るならそれでよかった。
「い、いちおう、お仕事だからね・・・」
フユはため息をつきつつも用意されている席に座る。
「迎えはフユさんでしたか。
まあ、当然ですかね、日本政府が私を見捨てる訳が無い。」
モトキは自分の中で納得していた。
「あ。あの、何か勘違いしてませんか?」
「なに?」
「私が来たのは遺言を聞くためですよ。」
「ゆいごん・・・」
「はい、ご家族に届けますので何かあれば聞きますよ?」
「ま、待ってくれ、この私が死刑になるんだぞ!」
「ええ、知ってますよ、ですから遺言を聞きに来たんです。」
「その前にやることがあるだろう!ここの政府に私の無罪を証明して、死刑の取り消しを訴えてくれ!」
「無罪?ヨシノブさんの名を騙った事は間違いないですし、カルラさんのアクセサリーを盗んで売ったのも間違いないですよね?」
フユの正論にモトキは少し言葉を失うが、それでも反論しないことには死刑が確定してしまう。
「そ、それは・・・
ち、違うんだ、サンプルを買うぐらい、いいと思ったし、アクセサリーだって部屋にあったんだ、決して盗んだわけじゃない。」
「部屋にあった物を勝手に売ったら盗んだも同然ですし、サンプルを買うにしても買ってもらう人に何も言わずに買うなんてありえません。」
「いや、だが私の研究は日本政府の為になるはずだ、それなら責任は日本政府にある。」
「日本政府は犯罪行為を是としません。
それに大事なのはヨシノブさんとの関係です。
研究は関係構築出来てからでも良かったのですが・・・
それなのにあなたの犯罪行為で関係性が悪化しました。
この責任は貴方の帰還が無い以上、貴方を推挙した、島長さんが取ることになると思いますが。」
フユはモトキを強く推薦した島長の名前を出す。
島長はモトキが所属する学閥の長であり、鉱物研究の国内第一人者であった。
「島長先生は関係無い。なんで先生に責任が行くんだ!」
「貴方を推挙したのだから当然でしょう、それに元々別の人に決まりかけていたのを島長さんが貴方に変更したと聞きましたよ。
それなら責任を取る必要があるでしょう。
まあ、ご年齢を考えれば引退なされるだけだとは思いますが。」
「ち、違う!先生は何も悪くない、俺も悪くないんだ・・・」
「そんな話はどうでもいいんです、それで遺言はどうしますか?」
「・・・まってくれ、本当に助からないのか?」
「国交のない国で犯罪行為をした場合、国として交渉することは出来ません。」
「そんな・・・遺言と言われてもすぐに思いつかない、後日来てくれないか?」
「来るのはいいですが、貴方がいつ処刑になるかわからないのですから、間に合うかどうか。」
「すぐに死刑は行われないだろ?」
「ここは日本じゃありませんから。
刑の執行がいつ行われてもおかしくありません。
遺言を残せる機会があとどれぐらいあるか・・・」
モトキの表情が青くなる一方だった。
「どうしますか?今なら遺言を預かるぐらいできますが?」
「遺言なんて考えた事が無い・・・」
「たぶん普通の人はそうだと思いますよ。
兵士さん、紙とペンを渡してもよろしいですか?」
「・・・本来は駄目なのだが、ヨシノブ様の関係者には融通しろと言われている。
紙とペンならいいだろう。」
フユは兵士に紙とペンを一度兵士に預けて、モトキに渡す。
「なんでこんなことに・・・」
モトキは死が迫る恐怖に涙を流しながら、渡された紙に、妻への思い、父母への別れ、島長への謝罪・・・
ヨシノブへの恨みを書くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます