第558話 フユの思い
「これは・・・ダメですね。」
フユはモトキの書いた遺言を一読して返す。
「なっ!遺言だぞ、何を勝手に見た上に返してきているんだ!」
「こんなもの受け取れる訳が無いでしょ。
ヨシノブさんへの恨みつらみをこんなに書いて。」
「それが私の思いだ!私がこんな目にあっているのはヨシノブのせいじゃないか!」
「貴方の罪はご自身のせいです。
ヨシノブさんへの恨みつらみが書かれた文書を預かる訳にはいきません。」
「フユさん、もう行きましょう。
こんな奴の相手をする必要が無い。」
オットーは冷たい目でモトキを見ている。
「まて、家族への遺言は!」
「受け取る価値が無い、この期に及んでおとうさんを侮辱するなんて万死に値する、フユさん行きましょう。」
オットーの怒りにフユもやれやれといった表情を浮かべる。
「モトキさん、そういうわけです。
ヨシノブさんの情けで遺言ぐらいはとのことでしたが、ヨシノブさんを侮辱する手紙を私としても預かる訳にはいきません。
オットーくん、そんな目で見ないでも私は違いますからね。」
オットーのフユを見る視線は敵を見るような目だった為にフユも自身の弁護の為にモトキと違うとアピールする。
「それではモトキさん、これでお別れですが、刑の執行までご健勝で。」
「待て!遺言を預かれ!いや、預からないなら俺をここから出せ!
聞いているのか!
おい!
出せ、出してくれ、
俺を助けてくれよぉ・・・」
段々弱気になるモトキの声を聞き流し、フユとオットーは部屋を出ていった。
モトキは二人が部屋から出たあとも兵士に連れ出されるまで檻にしがみつき叫び続けていた。
「フユさん良かったんですか?」
牢屋から出たあとオットーが確認する。
「うーん、日本政府としてはまずいかも知れないけど、ヨシノブさんの悪口を預かる訳にはいきませんしね。」
「そうですか、それならいいんです。」
フユは気づいていた、もし遺言を持ち帰った所でどこかで子供達に奪われるであろうと、その際、自分の命がある保証がどこにもないことを。
「私は敵になるつもりはありませんよ、必要なら日本を捨てる覚悟で来てますから。」
「家族とかはいないんですか?」
「残念ながらね・・・
だから別に日本に未練はあまり無いし、折角異世界に来れたんだよ。
私はこのチャンスを最大限に利用するの。」
「チャンスですか?」
「そう!平凡な日常からの脱却よ!」
フユの目が輝いていた。
「平凡な日常もいいと思いますが?」
「オットーくんにはわからないのよ。
私は異世界にいるためなら国すら捨てる覚悟で来ているのよ。
今更、日本の政権の為に日本人救出してヨシノブさんと敵対なんて出来ないわ。」
フユは異世界にいる為なら国を捨てても構わないと本気で考えていたのだった。
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