第522話 屋敷に帰る
トラブルが起きたので予定していたルーカス商会への訪問は取りやめ、一度屋敷に戻る事になった。
「何だ、まだ昼というのにもう屋敷に戻るのか。」
モトキは不満そうに声に出す。
「トラブルが有りましたので一度戻って来ました、再度指示があれば出掛けるかも知れませんが一度お部屋にお戻りください。」
オットーは淡々と告げる。
「あーそれなら私をヨシノブの元に案内したまえ。」
「なぜ、私が貴方の言うことを聞かなければならないのですか?
私に命令を出したいならおとうさんの許可を取ってください。」
オットーは冷たく答える。
「なっ!君は私を案内する勤めがあるのだろう!」
「冒険者ギルドに案内する指示を受けただけです。おとうさんの元に案内する指示は受けていません。」
「くっ!それなら私が直接ヨシノブの元に行く!」
「あー、もしプライベートエリアに侵入するつもりでしたら、お止めになられたほうがよいかと。」
「何だと!」
「許可なく侵入するものは敵として排除しますので、先程の冒険者のようになりたくなければお止めになられることをオススメします。」
オットーはここでモトキに殺気をぶつける。
非戦闘員でもあるモトキは殺気に慣れていない、オットーの殺気で失神してしまった。
「おや、ゴミ、失礼お客さんが倒れたようだ、誰か捨てて、もとい部屋に放り込んで置いてくれ。」
モトキは二人の子供に引きずられながら部屋に連れて行かれるのだった。
オットーの対応からして、モトキが子供達との関係構築に失敗したことは明らかだった。
「研究者の一人が失礼した事はお詫びする。
もし、ヨシノブさんに面会したいときはどうすれば良いのだろうか?」
ゲンザイがオットーに確認を取る、このまま屋敷にいるだけで終わることは避けたかった。
「誰かにお伝え下さい、その時の状況次第でおとうさんにお伝えして、都合が良ければ面会が叶います。」
オットーの言葉の端には信頼関係が壊れると自由が無くなることを示唆していた。
「わかった、我々はヨシノブさんと敵対する気は欠片もない、モトキ、さっきの男にもよく言い聞かせておくよ。」
「ええ、出来れば二度と絡んで来ないことを希望しますね。
大人しく日本に帰れる日まで・・・」
ゲンザイはゾッとする、少年の目は笑っておらず、敵意すら感じられる。
そうだ、この少年は冒険者の男を迷うことなく撃ち殺したのだ、この敵意が殺意にまで昇華されたら私達も殺されるのではないか・・・
ゲンザイの背中に冷や汗が流れることを感じる。
「オットーくん、本音で私達の事をどう思ってますか?」
フユはオットーに確認することにする。
その言葉にゲンザイ達は固まる。
「ハッキリ言うと邪魔ですね、ショウ兄の友達は仕方ないのかなと思いますが、おとうさんの人の良さにつけ込んで人を送り込むなんて不快でしかない。」
「うーん。やっぱりそうだよね、関係無い私達がお家にお邪魔してるんだもんね。
でも、なるべく邪魔をしないから、もう少し様子を見てくれないかな?」
フユはオットーに諭すように優しく話しかける。
「おとうさんに迷惑をかけないなら、いても構わない。
でも、おとうさんに敵対したり、名を貶めるような事をしたら・・・」
「わかってるよ、私はヨシノブさんに日本での名声を得ることに協力したいんだ。」
「日本での名声?そんなものにどんな価値が?」
オットーにしては異世界に住むヨシノブが日本での名声に拘るとは思えなかった。
「日本には故郷に錦を飾るって言葉があってね、地位や栄誉を得た人が生まれ育った地に帰って褒められるといった言葉何だけど、
この場合、ヨシノブさんを子供の頃から知る人達にどれだけ凄い事をしているのか知ってもらうのは大事な事じゃないかなって思うんだ。」
「知ってもらう?」
「そう、ヨシノブさんを知る全ての人がどれだけ凄い人になったのか知って褒め称えるの、ヨシノブさんは日本に帰れない、帰らないのかも知れないけど、ヨシノブさんの名前と栄誉は日本の歴史に刻まれるの。
これは凄い事だと思うのよ。
その為にも、もう少しだけ私達に協力してもらえないかな?」
フユは真摯な眼を向けオットーを説得する。
「わかった、貴女が約束を守るならもう少しだけ協力することにする。」
オットーは仏頂面ながら、フユの説得に折れ、協力を約束するのだった。
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