第496話 裁判は止められない

有無も言わさずに斬られる者がいる一方・・・

「領民から不当搾取と商人への支払い拒否か・・・」

「そ、それは誤解でありまして・・・」

「言い訳を聞く気にはならん。」

マックスはスッパリと言葉を遮断する。


「こ、これは裁判のはず、せめて話を聞くぐらいは!」

「時間が無駄だ、ここにある証拠は確実なものだけだ、怪しい証拠は提示していない。

さて、お前の処罰は・・・

被害者に被害の倍の支払いを行え。」

マックスは斬るに値しないと判断、簡単な和解案を提示する。


「そんな、倍なんて払えない。」

「ならば、そこで首を置いて行くか?それでも構わないぞ。」

「ちゃんと取調をしてくれ、私は償う必要が無いことがわかるはずだ。」

「そんなのは他で言え、俺がやる以上俺が法だ、文句があるなら首を置いてから言え。」

マックスは聞く気などない、どんな者であってもさっさと片付ける事に重点を置いている。

必要なら首にすることも厭わない。


結局、貴族の男は支払いをして釈放されるのだった。


そして、最大の難関ともいえる、ウイン王太子派閥筆頭のミカエル侯爵がマックスの前に連れてこられる。

「マックス伯爵、なんの冗談だね、私にこのような真似をしてウイン王太子にお伺いを立てているのだろうな?」

「何故、王子に聞かねばならん、俺は陛下の勅命で裁判を行っている、たとえウイン王子といえど邪魔をするなら処罰するつもりだ。」

「なっ!ウイン王太子殿下を処罰するなどとは、この者は謀反を企んでおるぞ、騎士よ奴を取り押さえろ!」

だが当然の如く誰もミカエルの命令には従わない。


「ミカエル侯爵、貴方は命令権が無いにも関わらず、騎士に命令を下した。

これは国家に対する反逆と言っても過言ではない。」

「過言に決まっておる!ワシは国に逆らう気などない!」


「これはおかしな事を、貴方は国に納めるべき税を着服し、愛すべき国民を虐げ、あろうことか新婚夫婦に初夜権を要求する外道ぶり、陛下に成り代わり、この俺が処分してやる。」

「全て我が領内の事だ、脱税というが多めに取った分を多少懐に入れただけで国への税はしっかりと納めておる。」

「言いたいことはそれだけか、ならミカエル侯爵に処分を言い渡す。

脱税、強姦、殺人、そして国家反逆罪により、ミカエル侯爵自身は死罪、財産の没収、家名は断絶、奥方の実家に至る親族全員に罰金処分と致す。」

「なっ!あまりに重すぎる、それに国家反逆罪など貴殿の言いがかりではないか!」

「だからどうした、俺はサッサと片付けたいだけだ。」

「何を言っている?貴殿も裁判をするならしかと調べて判断すべきである。」

ミカエルは声高に叫ぶ、そこに走り込むように使者がやって来た。


「マックス様、ウイン王太子殿下からミカエル侯爵様の減刑願いが出されました、どうかご考慮ください。

これが書状にございます。」

ウインはルーズに止められる前に減刑願いを出していた、マックスに任せていると処刑は免れない、自身の理解者であり派閥の重鎮を失う事は王に即位した後に影響が出てしまう為に何としても避けたかった。

「ほれ、王太子殿下の御命令がくだされたぞ、さっさと釈放せんか。」

ミカエルは勝ち誇ったような態度をとる。


「将は軍に在りて、君命とて受け入れぬ事があるという、今がその時だ。」

だが、マックスはそれでも聞く耳を持たない。

「ウイン王太子殿下の命令を受けぬとおっしゃるのか!」

「俺は陛下の命令を受けている、たとえ王太子だろうと俺に命令をする権利はない!」

マックスはハッキリと宣言する。

使者も一応筋の通ったマックスの言葉に反論しづらかった。


「これ以上長引かせると法が歪む、即座に処刑を実行する。ミカエル侯爵、お覚悟を。」

「ま、待て!話し合おう、話せばわかるはずだ、そうだ、陛下に陛下に願い出でれば必ず許されるはず、一度お伺いを立てよう。」

ミカエルは必死だった、殺気を漲らせ、剣を片手に近づいてくるマックスは明らかに自分を斬る気であり、命の危機が迫っていた。


「伺いを立てれば時間がかかるじゃないか、俺は早くカルラさんに会いたいんだ、邪魔をするな。」

「なっ!そんなこと・・・」

ミカエルは言葉を言いきれなかった、最後の言葉を残すこともなく処刑された姿は貴族としての扱いじゃなく、ただ一人の罪人だった。

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