第491話 ビザ家、襲撃される

ヨシノブの屋敷から戻ったマックスは裁判の準備を始めるのだ。

「カルラさんに良いところを見せねばな。」

意欲は邪な物だが、やる気には満ちていた。


「マックス様、ビザ家のより使者が参っておりますが如何になさいますか?」

「ビザ家か、一応会おう。通してくれ。」


マックスは使者と面会する。

「使者と言うことだが、なんのようだ?」

「この度、マックス伯爵様が裁判長になられたとお聞きしましたので、ご挨拶に参りました。こちらをお納めください。」

使者は見るからに高級な宝物を持ってきていた。


「こんな物を貰ういわれはない、持ち帰ってもらおう。」

「いえいえ、これからのお付き合いを考えれば邪魔になるものでも無いでしょう、それに見てください、この美しさ!

どんな美女もこの美しさには敵うものはありませんぞ。」

使者は宝物を見せる!

使者はビザ家の立場を理解しており、この危機を乗り切るためにレンを説得した上で、ビザ家の持つ宝物の中でも最上級の物を用意していた。

それは国宝と呼んでも良いほどの輝きを見せている。

どんな人でもその美しさに眼を奪われるだろう。


・・・ただ、それは万民にとっての話だった。

眼の前の男は違った。

「こんな物がカルラさんに勝るだと・・・

ジョン!この痴れ者を捕縛せよ!

賄賂の現行犯だ!」

マックスは激怒の元、執事ジョンに捕縛を命じる。


「よろしいのですか?仮にも侯爵家の者になりますが。」

「こやつは犯罪者だ!カルラさんの美をこんな物以下とほざきやがった!

処刑でも生温いわ!」

「・・・罪状が変わっておられる気がしますが、捕縛に否はないですな。」

ジョンは命令の元に使者を捕縛する。

「お、お待ちを、決して賄賂などでは無く、お知合いになられたご挨拶にと。」

「そんなことはどうでもいい!

お前の罪はカルラさんへの侮辱罪だ、お前の罪は万死に値する事がまだわからんのか!」


誰にも理解することが出来ない罪状であろう。

だが、誰もこの変態を止めるものはいない。


「ジョン、騎士団を動かす、今すぐビザ家の屋敷にいるものを全て捕まえる。」

「マックス様、それは些か行き過ぎかと。」

「どこがだ、このような考えをするもの使者の家などロクなものではない。

強襲をかけるぞ!」

マックスの指揮の元にビザ家の屋敷は家宅捜索の名の襲撃を受ける。

抵抗するものは無慈悲にも討ち取られるのだった。


「マックス様、贈賄の資料が出てきました。」

「こちらからは禁止されているエルフ族の奴隷販売の帳簿と・・・屋敷の地下牢からエルフ族の女性も発見されました。」

家宅捜索の結果ビザ家の悪行が次々と見つかる。


高位貴族の屋敷にこれ程の強行な家宅捜索は王国の歴史上でも類を見ないものだった。

普通なら事前に知らせがあり、隠す時間が与えられるのだが、怒りに任せたマックスを止める者はいない。

そして、家宅捜索に必要な書類は裁判官が発行出来るのだ、騎士団という実行部隊と裁判官という裁量権を得たマックスは悪事をしている貴族にとって最大限の恐怖となる。


「同族を助けていただきありがとうございます、私はエルフ族のハマチ領主の娘、レイキといいます。

このご恩は決して忘れません。」

レイキは一族の命令で、同族のエルフを捜していた、何とかビザ家の屋敷に囚われていることまでは掴んだのだが、身分の壁も有り、調査する行えなかった。


その仲間を颯爽と助けてくれたマックスに淡い恋心を持ち、頬を赤らめながら見つめている。


レイキは見た目麗しく、普通の男なら見惚れてしまうのだが・・・


「そうか、誰かこの娘と捕らえられていたエルフをハマチ族まで送る準備をしてくれ。」

マックスはただ職務としてこなすだけだった。

「あ、あの、ご恩を返したいので私をお側に置いてもらえませんか?」

このまま帰ってしまえば、マックスどの縁が切れてしまう。

レイキはマックスの側に仕えることを願い出る。


「うん?その必要は無い。」

「いえいえ、私が恩を返したいのです、だめでしょうか?」

レイキは上目遣いでマックスに迫るが・・・

「ダメだ、カルラさんに誤解されると困るからな、女は近くに置きたくない。」

「カ、カルラさん、マックス様には他に女性が・・・

ですが、私も美しい方だと思うのですが・・・」

「君はカルラさんには勝てない、諦めて里に帰るがいい。」

エルフ族として美しさを誇るレイキのプライドを打ち壊し、ビザの屋敷をあとにするのだった。

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