第363話 糸が布になり

俺の全面協力を得た源家がドレスを用意するのは早かった。


異世界で実際に作業を行う光景を録画し提供したうえ、制作している人をテレビ電話越しとはいえ指導に呼ぶ。

日本で作業を行う人も源家の家臣に連なるものが伝統を守る職人として糸からの織物を得意としているものがおり、最高級の布地を作成、

世界的デザイナーが自身の名に恥じない最高のデザインで作り上げたドレスは明らかに素晴らしいものが出来ていた。

ちなみにサリナのマタニティドレスもデザインしてもらっており、現在こちらの職人の手で作成中だった。


川上に渡した糸はなんとか布にはなったものの未だに完成が見えていなかった。


その間に上流階級ではお披露目が行われていた。

アズサの母、ミズキの主催で行われたパーティでミズキとアズサがドレスを着て出席したのだった。

異世界最高の糸で織られた布の肌触りや光沢は最高級の絹ですら叶うことの出来ない美しさがあり、誰しも欲しがるものの、金銭では手に入らない希少価値に加え、ほとんどの人が取引を行うことすらできなかった。


ただ一人をのぞいて・・・

「お兄ちゃんに話があります。」

俺が妹のカオリから電話がかかってきた。

「な、なにかなあ・・・」

カオリのこの切り出し方はたいてい怒られる時だった。俺は少しびくつきながら話を聞いていた。

「お兄ちゃんが源家におろした糸を私にもおろしてくれないかな?」

「レッドスパイダーの糸のこと?」

「多分それのことだと思う、お世話になってるレオさんの奥さんのミラさんが欲しがってるみたいなの、なんとかならないかな?」

「沢山は無理だけど、一人分ぐらいはあるかな?ちょっとまって、シモ〜蜘蛛さんにもう一人分頑張ってもらえないか聞いてみて?」

「うにゅ?きいてみるのよ。」

シモは走って聞きに行った。

蜘蛛たちは現在屋敷の一角に作った家に住み着いている。ゆくゆくは新しい基地に連れて行くつもりだがそれまでは仮宿として家を用意していた。


「くもさんに質問なのよ、あと一人分糸がほしいのよ。」

蜘蛛は普段出さないほどの糸を出したため、無理だと伝える。

ダン!

シモは床に鞘に入った刀を叩きつけ音をたてる。

「おとうさんの頼みなのよ。

もう一度答えるのよ。シモはハイかイエスが聞きたいのよ。」

シモの威圧に蜘蛛が固まっている。

「こら、シモ!無理強いはだめだよ。ごめんね、蜘蛛さんに無理させてるよね、次に作れるようになったら用意してくれるかな?」

俺は心配でシモを追ってきていたがどうやら正解のようだった。


蜘蛛はコクコクと頷き、後日用意してくれていた。

ただ・・・

「おとうさんごめんなさいなのよ、怒らないでほしいのよ。」

シモは涙をためて謝っていた。

「シモには無理を強要する子に育ってほしくないんだ、叱ったけど怒ってないからおいで。」

「おとうしゃん・・・ごめんなさいなのよ。」


シモは号泣して俺に抱きついてくるのだった。

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