第358話 鬼の住処
「おとうさん、亀さんの背中に友達の家を建ててほしいのよ。」
シモが不思議な頼みをしてくる。
「亀の背中に家を?」
「そうなのよ、友達が住むのよ。」
「よくわからないけど現地に行っていいかな?」
「いいのよ、こっちなのよ。」
シモが手を引き案内する。
「これって島じゃないの?」
「亀さんなのよ。亀さんおとうさんに挨拶するのよ。」
シモがペチペチ甲羅を叩き呼びかけるが何も反応がなかった。
シモは刀を刺す。
「ギャァァァーー!!何をするんですか!」
「おとうさんに挨拶するのよ。」
「なんで僕が人間ごときに・・・ギャァァァ!」
シモは刀から浸透勁を発する。
「この亀、おとうさんを何だと思っているのよ。」
「なんで、アキラ様と同じ浸透勁を・・・」
「教えてもらったからできるのよ。それより挨拶するのよ。」
「・・・」
「挨拶できない子は喰ってしまうのよ。酒吞、鍋の準備が必要なのよ。」
「捌くのはお任せあれ。
鍋は精がつくと言いますし、折角お越しくださった、姫様の御父上に食べていただきましょう。」
酒吞童子は大剣を用意して巨体な亀でもぶった斬れそうだった。
「ま、まって!僕も挨拶したいなぁって思っていたとこなんです!」
「うにゅ?精が出る亀を食べたら赤ちゃんが出来ると聞いたのよ。
そした、弟か妹が増えるのよ?」
シモは既に鍋にする事を考えていた。
「そんな!待ってください。」
亀の懇願虚しく、鬼達は鍋を用意し始める。
オタオタしている亀が可哀想になってきたので・・・
「えーと、シモとりあえず話を聞かせてくれるかな?」
俺はシモから事情を聞くことにした。
「うにゅ、おとうさんに精をつけてもらって、赤ちゃんが増えるのよ。
そしたらシモは愛情いっぱいで育てるのよ♪」
どうやら、鍋にする事しか頭に残ってないようだった。
「まあ、ちょっと待ってあげて、亀さん、どういう事か説明してもらえる?」
「僕は四獣の一角を担う、玄武です、じゃないである。
矮小なる人間に従うつもりなどない。」
亀は俺を見下しているようで、不遜な態度をとるが・・・
「おとうさん、やっぱり鍋なのよ。
シモは亀より赤ちゃんがいいのよ。」
「待って下さーい!どうか命はお助けを!」
「シモもう少し待ってね、亀さん、一応聞くけど命の危機だってわかってる?」
「うう、なんでアキラ様と同じ強さの人間が他にいるんですか・・・」
「それは同意するけど、俺達に敵対するかどうかまずは聞かせてくれるかな、いや、もっと単純に聞こうかな、生きていたい?」
「・・・生きていたいです。」
「それなら話を聞かせてくれるかな?たぶん助けれるのは俺だけだと思うよ。
シモはもうお鍋の事で頭がいっぱいだからね。」
「鍋はいやで〜すぅ!」
「なら話してくれるね。」
亀は連れて来られた経緯、そして、過去にアキラに従って旅をした事を告げた。
「なるほど、そういえばアキラさんが四獣を倒せば異世界を渡れるとか言ってたな。」
「それは四獣の魔力を集めて宝玉に溜めれば出来ます。
殺さなくてもいいんです。
・・・ただ、人に従うかが別なだけで。」
「それで君は俺達に従うの?」
「逆らえると思えますか?」
既に鍋の準備をしている鬼達と、アキラとシモの二人・・・
「逆らわない事をおすすめするよ。アキラさんは無理だけどシモなら俺が言えば止まってくれるからね。」
「えっ?そんなに弱そうなのに?」
「傷つく事を言うなよ、たしかにシモの方が強いけど、強さだけじゃないんだ。」
「お嬢様が言うことを聞いてくれるなら従います!どうか食べるのを止めさせてください!」
亀はチラリと大鍋の準備が進み、下拵えが始まっている事を目にした。
「シモ、亀さんを食べるのは止めなさい、代わりの食材は出すから。」
「うにゅ?赤ちゃんは?赤ちゃんはどうなるのよ?」
「サリナが赤ちゃんを産むまでは増えたりしないからね。」
「うにゅ、残念なのよ・・・」
シモはションボリする。
「姫様、御父上の御子を増やすなら、御母上じゃなくても、何なら我が一族から。」
「はい、そこの鬼さん、えーと酒吞さんだったかな?いらないことを言わない。
シモは良くわかってないし、まだ知らなくてもいい事だからね。」
「これは出過ぎた真似を、ただ、ご要望ならいつでも。」
「要望しないからね。さあ、家を建てるよ。」
俺は亀の甲羅の上に鬼の住処を作り上げた。
ただ、島に見える亀の上に住む鬼を見て、鬼ヶ島ってこんな感じだったんだろうかと何となく思っていた。
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