第343話 タスクの心理

「何故帰ってきた!この愚か者が!」

帰宅したタスクを待っていたのは父マルクからの罵声であった。

「父上、たしかに退役させられた事は謝罪します。

しかし、そこまで言わなくても・・・」

「お前がした事のせいで我が家は軍関係に白い目で見られているのだ!」

「なっ!一個人の事で軍全体がということはないでしょう。」

タスクは軍が地獄の訓練行っていることを把握していなかった。


現在、第四騎士団と近衛騎士団が訓練を行ったあと、第一、第二と間隔をあけ、訓練のレベルを落としているとはいえ、訓練は継続されていた。


そして、訓練が終わった者は各自原因のタスクを恨む事になる。

各騎士団の詰所にはダーツの的としてタスクの似顔絵が置かれているぐらいに嫌われているのだった。


「タスクよ、そなたを勘当致す。今後、家名を名乗ることを許さん。」

「父上!」

「これは手切れ金だ、ワシからの最後の情けだ。」

マルクは白金貨20枚をタスクに渡す。

これだけあれば生きていくのに充分な金額でもあった。

親としての情けがそこにはあった。


「父上・・・」

タスクは膝をつく。

「ミルクにも挨拶をしていけ・・・」

タスクに母ミルクに別れを告げるように言うとマルクは部屋から出ていくのだった。


家族に別れを告げ、ミルクの紹介で家を借り、職を探すことになる。

しかし、利き腕の無いタスクを雇う者はおらず、しだいに家から出る事もおっくうになっていくのだった。


「兄様、部屋に引きこもると身体に悪いですよ。」

母違いの妹のウルルが様子見に来て、部屋の掃除から食事の世話までしていた。

「ウルル、俺はもう駄目だ・・・誰も俺を必要としていない。」

「そんな事はありませんよ、きっと道は開けます。」

ウルルはタスクを一生懸命になぐさめている。

ウルルは幼いころ、母の違いから屋敷に居場所が無かった時にタスクが庇っていた事があった。

それはタスクも幼く、まだ、出自を気にもしない歳であったこともあって、妹を可愛がっていただけではあったのだが、ウルルにしては掛け替えのない兄であった。


「兄様、そういえば謝罪はなさったのですか?」

「謝罪?誰にたいしてだ?」

「その、失言をなさった方にです。」

ウルルは言いにくそうに伝える。

「何故、私が謝罪をせねばならん!向こうは私の手を切り落としたのだぞ!」

「兄様、世の中は理不尽がまかり通るのです。

もし、私が国王陛下に対して暴言を吐いたらどうなると思いますか?」

「それは・・・死罪もあり得るのか・・・」

「そう言うことです、兄様が失言なされた方は国王陛下が礼を尽くして、対等の相手と認めている方の娘とお聞きしてます。

そのような方に失言をぶつければ、どうなるか落ち着いて考えればわかりませんか?」

タスクはウルルに言われて初めて自分に向き合う事をする。


「・・・俺は間違ったのか。」

「はい、元はどうあれ、現在相手は平民ではありません。

近衛騎士だった兄様が取るべきは何を言われても流さないといけなかったと思います。」

「くっ・・・」

「さあ、間違いがわかったのですから、謝罪に行きましょう。」

ウルルはタスクの手をとる。


「しかし、相手が受け入れるとは・・・」

「噂ですが、相手の方はお優しい方と聞いてます。

誠心誠意謝ればきっと許してくれます。」

タスクはウルルに手を引かれてヨシノブの屋敷を訪ねるのだった。

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