第333話 カルラの叱咤

「情けないですね!」

いたたまれない空気を破ったのはカルラだった。

全員の視線がカルラに集まる。


「大の大人が名前を覚えられなかったから何ですか!

贈り物?そんな物で心を掴む前にやる事があるでしょう。

あなたはリズ王女にどれほど声をかけたのですか!」

「・・・たしかに、あまり会ってはいない。

だが、それも領地の事があって。」

「なら、領地と結婚すればいいじゃないですか!

リズ王女を見てもないのに、自分だけ見てもらえるなんて烏滸がましいですよ!」

「・・・」

「見てください、リズ王女の目はあなたに向いていますか!

あなたは見てもらえてもいない人を婚約者として束縛するつもりですか!

もっと漢を磨いて出直してきなさい!」

カルラのタンカに周囲は静まり返る。


「カルラ、少し言い過ぎかな。」

「おとうさん、ごめんなさい。

あまりにウジウジしているのが見逃せなくて・・・」

俺は少しカルラを叱る。


「ガイラ侯爵、娘が失礼した。

娘の非礼は私がお詫びします。

ですが、リズ王女とは何もやましい関係では無いことをここに誓います。

証人には騎士団長が三人とマックス伯爵がいます。」

「・・・いや、その娘の言うことが正しい。

たしかに私は王家からの婚約の話に浮かれ、リズ王女の事を見ていなかった。

これも全て私が招いた物だ。

ヨシノブ殿が詫びる必要は無い。」

ガイラはあらためて頭を俺とカルラに下げる。そして、リズに向き合い。


「リズ王女、ルーズ王には私から後日申し上げますが、一度婚約の話を白紙に戻していただきたい。

不徳の私ではあなたに釣り会えそうにはない。」

「へっ?・・・いいですよ。お父様には私からも説明しときます。」

リズもあっさりと婚約破棄を受け入れるのだった。

どうやらこの子は婚約に対しての理解が低いようだ。

きっと後でルーズ王に叱られるだろう。


「あー、そこの女性、えーと名前をお聞きしてもよろしいか?」

俺がリズの今後を考えている間にガイラはカルラに話しかけていた。

「先程は分をわきまえず、失礼致しました。

私はヨシノブの義理の娘カルラと申します。」

「カルラさんですか、なんと私と名前も似ている。

これは運命でしょか?」

「たぶん、違うと思いますよ。」

「いや、違わない!初対面の私を諌めてくれたのもきっと運命なんだ!」

「それは、つい見てられなくて・・・」

ガイラはカルラの手を取り。

「どうか、私のお嫁さんになってもらえませんか!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「いえ、待てません!私の心はもう貴女に埋められてしまいました。

このまま、屋敷に連れて帰りたいほどに・・・

そうだ、ヨシノブ殿!カルラさんとのけっ・・・グエッ!」

全てを言い終わる前にマックスに吹き飛ばされ、壁に激突する。


「マックス伯爵、一体なんのつもりだ!」

「ガイラ侯爵こそ、カルラさんの優しさを勘違いしないでもらいたいですなぁ。」

「・・・なるほど、横恋慕ですか、マックス伯爵は自身のいかつい顔と相談してきたらいいですよ。

どう見ても、カルラさんの隣に相応しくない顔だ。」

「なっ!い、いや、この家は武門の家だ、彼女の横に相応しいのはひ弱な文官のガイラ侯爵では無い。武門の俺の方だ。」

マックスは威嚇するようにガイラと向き合っていた。

「僕が文官ですと?たしかに領地経営もしますが、剣の修練を怠った事は無い。

あなたのように武器を振り回すだけではカルラさんを幸せにできるわけがない。

身の程を知りなさい。」

「なんだと!やる気か!」

「あなたが望むなら受けて立ちましょう。」

一瞬即発の空気に騎士団長達が慌てながら止める中、話から置いていかれたリズはリーナとケーキを味わっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る