第230話 タケフミ、出世?

「なぁ、マイ、ポーションを送ってくれないか?」

氷の世界から帰ったばかりのマイの元にタケフミから連絡が来る。


「・・・お兄ちゃん帰っていきなり何を言うの?」

「こっちでやっていくのに必要なんだよ、ランクは低くてもいいからさぁ。」

「あんな真似しておいて、私が言うこと聞くと思っているの!」

「頼むよ、送って貰えないと困るんだよ。」

「・・・ヨシノブさんに聞いてみる。」

なんだかんだ言っても肉親の情があるマイはヨシノブに聞くだけ聞いてみる。


「ポーション?まあ、低位のならいいか、少しぐらいなら送ってもいいよ・・・」

訓練でへばっており、頭の回ってない俺は安易に許可を出してしまっていた。


そして、マイは低位のポーションを十個程おくったのだった。


それをタケフミは勿体ぶって3個だけ加持に渡す。

「向こうも渋っておりまして中級を3個だけ入荷出来ました。」

「おお、これがポーションですか!」

「真偽の程はキズに振りかければわかりますが。」

「それには及ばない、これは研究所に渡され日本でも精製出来ないか調べられるのだ。」

「そうですか、まあ、俺としたら報酬を頂けたら問題ないのです。」

「これは失礼をしたね、3本で150万用意した。これでいいかい?」

「も、問題ないです!」

タケフミからしたら妹に電話一本で150万円手にする事になる。


そして、研究所では・・・

「加持さん、これの複製は無理ですね。」

「なに?」

「地球に無い成分がいくつか検出されました。

新物質として登録するか必要があるぐらいです。」

「複製は無理か・・・それで、これの効能は?」

「そうですね、非常に止血効果が高い、これを使えば出血の多い手術も楽になりますね。

今までの出血の為に出来なかった事が出来るようになる、これだけでも価値があります。

これは複数用意できるのですか?」

「いくつかは用意出来るようだ。」

「それは素晴らしい!新医療の幕開けとなるのですな。」

研究所職員は喜びを隠せていなかった、それ程までに革新的な薬であった。


加持は結果をふまえて、宮木総理に報告する。

「総理、ポーションの入手に成功しました。」

「そうか!やはりタケフミくんはヨシノブさんの信用された者だったのだな。」

「そのようですね、今後も入手するよう手配しております。」

「よし、新たな薬として認可を取付けよう。」

こうして、政府の肝入でポーションは新薬として登録される。


その過程で情報は漏れ、ポーションを入手出来る、タケフミは時の人となり、テレビに出るようになっていく。

「タケフミさん、異世界はどのような世界なのですか?」

「皆さんの想像している通り、中世のヨーロッパのような所です、違いは魔法がある事ですね。」

「そこでタケフミさんはどのようなご活躍を?」

「私は巻き込まれた者なので、物語のような特別な力を手に入れる事が出来なかったのです。

ですが!持ち前の知恵と勇気で妹を守り、友の、いえ、他の日本人の救出に成功したのです!」


「それは素晴らしい、ですが、妹のマイさんはいまだに異世界にいるとの事ですが?」

「ええ、マイは異世界で知り合った人に心を寄せておりまして、残る決断をしたのです。

私も本来なら残るべきだと思ったのですが、日本の、いや世界の皆さんに異世界の事を伝えるように、そして、地球の皆さんを救う手助けをしてこいと、仲間に薦められ、戻って来たのです。」

「それは、さぞ難しい決断だったのでしょう。」

「そうですね、向こうには私に心を寄せている女性もいましたから、別れは辛いものがありました。

ですが、私にはこの世界にポーションという新手な薬を持ち込む使命があったのです!

その為に私は涙をのんで帰って来たのです。」

タケフミは持ち前の精神力と自分都合のいい理論を振りかざし、テレビでアピールを続けていく。


別れを涙ながらに騙り、使命の為と噓ぶくタケフミの姿に多くの人は騙され、タケフミは人格者・・・英雄視されていた。

そして、ゴーストライターによる自叙伝、『異世界の僕』を発売。

異世界でのありもしない活躍を描いているが、異世界を経験したということに話は信憑性を得ており、冒険物、そして、異世界に憧れる者達のバイブルとなり、ベストセラーになるのだった。


タケフミはこの世の春を謳歌するのであった・・・

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