第218話 ツバサの死

その後もマツが刺すが、ツバサは中々死ぬことがなかった。

それに出血も既に止まっているように見えた。


「マツさん、一度離れてください。」

「しかし!」

「いいから、離れてください。」

肩で息をしていたマツは一度は断ろうとするも俺の指示に従い離れた。

「どうも様子がおかしい、刺しただけでは死にそうにない。」

「そんな!」


「ヨシノブさん、男の子の心臓に魔法陣があります。それを壊せば動きが止まると思います。」

様子を見ていたファイが助言をくれる。

その言葉を聞いたマツは迷わず胸を刺しに向かったが・・・

刺さる前に止まっていた。


「あちゃ〜、防御の魔法陣も組まれてますね。単純な剣だと難しいかもしれません。」

「仕方あるまい、ワシが斬ってやろう。」

アキラは代わりに斬ると言うが、

「待ってください。お願いします、どうか私に奴を!父の仇を!」

マツは仇を討とうと懇願する。

「わかった、マツさん、ここに来てこれを持って。」

俺は銃をマツに握らせる。

「これを引けば弾が出て、ツバサくんを仕止める事が出来る。

狙いも俺がつけるから、合図したら引いてもらえるかな?

剣では無いけど、君の手で決着をつける事が出来るよ。」

「はい、お手数をおかけします。」


俺は弾に魔力が付与するようイメージする。


「な、なんだそれは!止めろって、俺が死んだらどうするんだよ!」

「ツバサくん、言い残す事はあるかい?」

「止めろって!」

「最後の情けだ、家族に伝える事があれば聞くよ。」

「最後なんて言うなよ!僕はまだ死にたくなんかない!」

「押し問答だね、遺言がないならこのまま死んでもらうが?」

「本当に死ななきゃいけないのか・・・」

ツバサは青い顔で聞いてくる。


「君はいろいろやりすぎた、死んで償ってもらう。」

俺は銃口をツバサに向ける。


「・・・いやだ!助けてください、もう二度としませんから!」

「やってしまった事は戻らないんだよ。

特に君に殺された人もいるしね。」

「この人殺し!恨んでやるからな!」

「どうぞ、好きにするといい。

それが遺言だな、マツさん。」

ツバサは悔しそうに、そして、絶望のうちひしがれた表情であった。


「はい、いきます!」

「ま、まって・・・」

マツが引いた弾はツバサの胸の魔法陣を貫いた。


「がはっ!」

ツバサは一度血を吐きそのまま動かなくなった。


「ファイ、魔法陣は消えたか?」

「ええ、完全に停止しました。ツバサの死を確認出来ました。」

「そうか・・・」

仕方ないとはいえ俺は同郷の子供を殺してしまったのだった・・・


「死体を埋葬しよう・・・って、なんだ!」

ツバサの体が灰となっていく。


「ふむ、既に身体は限界を越えておったか。」

「アキラさんは状況がわかるのですか?」

「たぶんだがな、吸血鬼とかを倒す時に、何度も斬り刻めば、再生出来なくなり、灰となるのじゃ、その状況に似ておる。」

「そういえば、何度か不死で蘇ったとか。」

「ならば、それが原因じゃな、何度も蘇ったせいで身体が限界を越えたのであろう。」

「そうですか、遺骨ぐらいは家族に返してあげたかったです。」

「気にするな、男なら一度家を出れば、屍を晒す覚悟もしてあろう。」

「いえいえ、してませんよ。」

「何と!嘆かわしい、ヨシノブ、世界はそんなに甘くないぞ。」

「アキラさん、世界はそんなに厳しく無いと思いますよ。」


「お主は覚悟が足りんようだな、少々厳しく教えねばならぬようだな。」

どうやら俺の訓練レベルは厳しくなる一方のようだった・・・

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