第72話 裁き

「くそっ!なんだって言うんだ!

俺は腕を無くしたんだぞ、もっと優しくしてくれてもいいじゃないか!」


電話を切ったタケフミは怒りがこみ上げてくる。

誰も彼もがヨシノブを頼りきっており、父ユウキにまでヨシノブ、ヨシノブと!


タケフミは思わず携帯を壁に投げつけた。

ガシャン!

マイの携帯は無惨にも壊れてしまう。


「・・・やべぇ!」

タケフミは慌てて携帯を拾うが、画面は派手に割れている。

電源をつけようとするが・・・

「き、起動しない・・・」

何度やっても起動しなくなっていた・・・


その頃、俺は俺を刺した奴が捕まっていると報告を受け、見にきていた。

そこには刺した男とその家族が檻に入れられ、住人達に石をぶつけられていた。


「なにこれ?」

「ヨシノブ様、御無事でしたか?」

住人が近づかないよう監視している兵士が俺に気付き近寄ってきた。


「これ何事?」

「はい、ヨシノブ様を刺した男とその家族にございます。

当初男を檻に入れていたのですが、住人達が家族を捕まえてきてリンチを行い出したので、保護の意味もかねて全員檻に入れております。」


「いやいや、せめて石が当たらないようにしようよ。」

「・・・我等もこいつらを恨んでいるのです。

ヨシノブ様を傷つけるとは万死にあたいします。」

兵士の思わぬ忠誠に少し引いてしまう。


「でも、家族に罪はないし・・・でも、釈放も出来ないよね?」

「はい、檻から出せば、明日には死体になっているでしょう。」

「まずは石をぶつけるのを止めさせよう。」

俺は兵士に檻の周囲に壁を作ってもらう。


その上で住人に声をかけた。

「みなさん、俺は無事です。

少し寝込んでしまいましたが、既に食糧の配布も始めました。

ですので、此処にいる方々を傷つける必要はありません。

俺はこの人達を傷つけるつもりはありませんから。」

俺の言葉に石をぶつけていた者達だろう、少しザワツキが起こる。


「いいですか、絶対に意味なく人を傷つけたりしないでください!」

一先ず俺の言葉で動きが止まった。

「この後、この人達と話して罰を決めますが、それが終われば普通に接してください。

いいですか!」

俺の声に頷いてくれていた。


そして、俺は自分を刺した男と話す事になった。

勿論、俺の周囲には兵士が何人も来ていた。


檻から出され、家族共に縄で縛られた状態で連れてこられていた。

「お、お願いします・・・家族だけは命を助けてくださいませ・・・

どうか・・・」

男は泣きながら必死に地面に頭を擦り付け、家族の命乞いをする。

「頭をおあげください。

俺はあなたもその家族の命もとるつもりはありません。」

男は顔をあげる、その顔は傷だらけでありながら、目には希望を感じているようだった。


俺は兵士にこの人の罪状ならどのような罰か確認する。

「ねえ、どれぐらいの罰が適当かな?」

「えっ?普通に処刑ですよね、ヨシノブ様は一軍の指揮官なのですから、それをふまえれば一族郎党処刑でもおかしくないですよ。」

どうやらこの世界は厳しいようだ。


「そこまでしなくていいよ、でも、どうしようかな・・・」

俺は悩みながら、男に質問を重ねていく。

話してみると、俺を刺したのは家族の為に食べ物を得ようとしての事だと聞く。


俺は刺されはしたが幸い命はあるし、彼に同情出来るところもあった。

落としどころを探していると、店をやっていたと聞く。

ふと、俺はあるアイデアを思い付いた。


「雑貨屋だったの?」

「はい、大きくありませんが・・・」

「よし、じゃあ、俺の下で店をやってもらう。」

「へっ?」

「でも、王都じゃもう住めないか・・・

別の国になるけどかまわないかな?」

「わ、私に異存はありませんが、それでよろしいのですか?」

「国外追放ということを罰として発表するよ。

それなりに重い刑に聞こえるだろ?」

「ありがとうございます・・・」

マルコスは大粒の涙を流してヨシノブに感謝するのだった。


「泣かなくても、しっかり働いて貰いますから。

さて、じゃあ、皆さんは艦内に監禁ということにしますね。

多少の制限はつけますが自由にしてください。」

マルコス達を艦内に連れて行くように伝える。

こうして、俺は自分を刺した男を雇うのだった。


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