第73話 マルコス前編

俺はマルコス35歳だ、王都で雑貨屋を開業して十年になる。


俺には素晴らしい家族がいる、妻のジェナ(30歳)は幼馴染みで俺をずっと支えてくれている。

見た目も良く、幼馴染みでなければきっと相手にもしてくれなかっただろう。


息子のスィン(12歳)はジェナに似て頭も良く、学校では一番の成績であった。

先生からも紹介状をだすから官僚を目指さないかと誘われるも、俺の後を継ぎたいと可愛い事を言ってくれている。

俺としては官僚を目指してもいいとは思うのだが、それでもやはり、俺の後を継ぐと言ってくれるのは嬉しいものだ。


娘のフィリア(11歳)は少し人見知りなところがあるが美しく育ってくれている。

性格も穏和で周囲に優しい、時折聞いたことの無い言葉を喋るが、あれは何処で覚えたのだろう?

近所の男の子達にモテているようだが、好きな人は出来ていないようだ。

まあ、大店の店主から見合いの話もきているが、俺は本人の意思に任せるつもりだ。


そんな素晴らしい家族に囲まれ、幸せに暮らしていた、あの日がくるまでは・・・


いきなり大地が大きく揺れ始める。

「地震よ!お父さん、お母さん、お兄ちゃんみんな机の下に潜って!」

フィリアは聞いたことも無いような大きな声で叫ぶ。

「早く!」

フィリアに急かされ、俺達は机の下に入り込んだ。

確かに頭上からの落石から机は頭を守ってくれた。

地震がおさまると、フィリアは外に出るように告げる。


外に出ると店は半壊していた。

「そんな・・・私の店が・・・」

俺は大きくショックを受けていた。

長年かけて築いた店が一瞬にして崩壊したのだ。


「お父さん、取り敢えず、食べ物と食糧を、あと寝る所を探さないと。

避難所って無いのかな?」

フィリアの助言は凄く頼もしかった。

俺も息子のスィンですら呆けていたのに、フィリアは的確に助言をしてくれる。

私達は広い場所に夜営用のテントを張り何日か過ごした。


しかし、食糧が乏しくなってくる。

フィリアの予想だと、何日かすれば国が炊き出しなどを行うだろと言っていたがその気配はなかった。

家族は腹を減らし、動けなくなっている、

頼みのフィリアもお腹がすいたとしか言わなくなってきた・・・


俺は父として家族を食べらす為にも食糧を探す。

すると目の前で、食事をとっている集団がいた。

俺は護身用に持っていたナイフを構える。

そして、一番弱そうな奴から食事を奪うのだ。

俺は気配を消し、少しずつ近付き一気に刺す。

そして、パンを奪い逃げるのだ。

しかし、それは無駄だった。

良く見ると周囲は兵士に囲まれていた。


俺が襲ったのは兵士の集団だったのだ。

俺は取り押さえられ、その場の処刑こそ無かったものの、港で檻に入れられる。

こんな事をしている場合じゃない!

家族を助けないと!

罵声が聞こえる中、長年の友人の姿が見えた、ガルカ、アルデア、ヘロンの三人だ。

彼等は二十年来の友達だ、彼等なら!

俺は声をかけるが、答えは非情なものだった。


俺が失意にくれるなか、家族が港に連れて来られる。

「ジェナ!スィン!フィリア!」

俺は声をかけるが、みんな既に殴られた後があった。

「や、止めてくれ!家族は関係ないだろ!」

俺は必死に懇願するが、誰も聞いてくれない。

だが、兵士が家族を俺と同じ檻に入れた事で殴る蹴るといった暴力は無くなった。

代わりに石が飛んでくる。

多数が檻に当たり外れるが中には家族に届く物も・・・

俺は自分の背中で家族を守る。

これ以上家族を傷つけてたまるか・・・


昼夜に及ぶ暴力はヨシノブが来るまで続くのだった。

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