第8話 王都

王都に着くと、屋敷が用意されていた。

「ここがヨシノブ殿の屋敷となる。

管理費等は当家で持つので気兼ねなく人を雇ってくれ。」

「アレク様、これは大きすぎますよ。

これの十分の一で充分なのですが。」

「警備兵から始まり侍女も執事も用意してある、何も気にする事はない。

それに何かあって多く人を診察するのにも大きい方が良いであろう。」

俺はアレクの説得に負けてこの屋敷で暮らす事になるのだが・・・


夜になり、夕食を食べている時にふと気付く。

「サリナさん、何で此処に?」

「えっ?」

「王都にリザークさんの家もありますよね?」

「ありますけど、私はヨシノブさんについて来たんですよ。一緒にいますよ。」

「いやいや、不味いでしょ。貴族の娘さんが男と同じ家に泊まるなんて不祥事になってしまうのでは!」

「今さらですね、それに肺病を患った私にまともな縁談なんて来ませんよ。

・・・ヨシノブさま、私は迷惑ですか?」

サリナは目に涙を浮かべて俺を見つめてくる。

「い、いや、そんな事は無いよ。

わかった、いてもいいから泣きそうな顔をしないで!」

「良かったです。ずっと一緒にいますね。」

サリナは泣き止み嬉しそうな顔を浮かべる。


一瞬、サリナに尻にしかれている自分の未来がみえた・・・


翌日から俺は診療を開始する。

スコール公爵の紹介だからと貴族の令嬢が次々に訪れ、俺は診察していき、薬を出す。

中にはただの風邪や、別の病気の者もいたが、それぞれに薬を出していった。

そして、数日が立つ、その頃には最初に投薬を行った人達に改善がみられ、貴族間で噂となる。



夜に一息つくと、同じく忙しく働いていたサリナと休憩をとる。

「サリナさん、お疲れ様。」

「はい、ヨシノブさまもお疲れ様です」

「サリナさんがいて助かりましたよ。貴族の令嬢の相手は私には荷が重いですから。」

「お役に立てて何よりです、明日からも沢山来ますからね。ヨシノブさまも頑張りましょう。」

笑顔を浮かべるサリナに癒されていると、

急に扉が開かれ、招かれざる客が現れる。


「貴様が医者か!」

男は兵士を連れ、室内に入ってきた。


「どちら様ですか?」

俺はサリナを背中に隠し、いつでも撃てるよう拳銃を呼び出す。

「私はカクタス侯爵家の者である。

貴様の医術の提供を命じる、速やかに従え。従わぬ場合は・・・」

後ろの兵が剣に手をかけている。


「その指示には従わない。

それに俺達はスコール公爵から庇護を受けている。

カクタス侯爵はスコール公爵の庇護を無視する気か。」


男は俺をバカにしたように言う。

「いい覚悟だが、いくら庇護を受けていても今この場で死ねば何もならないということを知らんのか?

おっ、後にいい女がいるな、手土産に持ち帰るか。」

サリナを見て舌なめずりしながら言う。


「カクタス侯爵家はモス子爵の令嬢たる私、サリナ・モスを拐うと言うのですか!」

サリナは一歩出て、自分の身分を伝え、相手に下がるように言うが・・・


「ククク、子爵が侯爵に逆らえる訳が無かろう。

いくら不祥事を起こしても泣き寝入りするだけだ。

何せ私はカクタス侯爵家、次男イスマル・カクタスなのだからな。」


イスマルと名乗った男はサリナをバカにするように言いながら、サリナの体を舐めるように見ていた。

その視線にサリナは後に下がる。


「それにだ、一度汚された女等、貴族社会で生きてはいけまい。

俺が食した後は部下の慰み物にしてやるからな。

俺様にでかい口を叩いた事を後悔するがいい。」

サリナは震えていた。


そして、俺はサリナを慰み物にするというイスマルに怒りを覚える。


「つまりあんたは俺を捕縛して、サリナを慰み物にするってか?」

「無礼な口を聞くな下賎の者め、お前は奴隷になり薬を作り続けるだけだ。

その女は気持ち良いことをしてやるだけだな。」

後ろの兵共々大笑いをしている。


俺はその隙に拳銃をカクタスの後ろにいる兵士の頭を撃ち抜く。

弾切れまで兵士を撃ったのち、小銃を呼び出し、踏み込んで来た兵士全員を殺害する。

「な、何をした!」

イスマルは撃ち倒される兵士を見ながら俺に問いかけるが・・・

「何って、人の家に押し入る賊を始末しているだけだ。」

俺はイスマルの両足を撃ち抜く。


「ぐわぁ!お前は医者じゃないのか?」

「生憎、医者じゃないな。ただ治療が出来るだけだ。」

「この俺にこんな真似をしてただで済むと思っているのか!」

「賊がカクタス侯爵家を騙るのだ、お前こそただで済むのか?」

「な、何を?」

「この不祥事、お前の親はお前を庇うのか見物だな。」


俺はイスマルを含め、襲撃してきた兵士の死体を門の前にさらす。

そして、文字の書ける者にこの者達の罪状を書いた札をつけておいた。


「サリナ、此処ではまた襲撃があるかも知れない、狭いが安全な所がある、今晩は其処で寝ないか?」

少し震えるサリナを誘う。

「はい、私は何処までもついていきます。」

サリナは俺の手を取り、ついて来てくれた。

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