第3話 親友と兄

 滑り込んできた赤とシルバーの車体に乗り込むと、空いていた席に腰を下ろす。実家までの距離が近くなった安心感からか、どっと疲れが押し寄せた。

  

 緑が増えつつある車窓を眺めながら、麻梨奈は幸太のことを考えていた。

中学からの同級生で、隠し事はほとんどしてこなかった。漫画を貸し借りしたり、苦手科目はテスト前に教えあってカバーしてきた。

互いに交際相手がいなかったこともあり、高校では放課後に幸太が教室まで迎えに来ていた。



そんな彼への唯一で最大の隠し事は、タイミングを逃したまま打ち明けられず、晴れない気持ちを抱えたまま麻梨奈は県外へ進学した。



いつか言わなければならない。

いや、言わなくてもいいのかも知れない。

そんな押し問答を何年も続けて来た。いつしかバレないようにと隠すようになった。嫌われたくない一心で。


 翔太が麻梨奈の秘密を知っているのは、彼の店Assentのルールあってこそだ。決まりは今まで破られることなく幾人もの救いになってきた。

加えて、翔太は店内で知り得た秘密を許可なく他人に話したりしない。そんな彼の人柄をかって客たちは通い詰めるのだ。


 中学の頃、幸太が

「女子とばっかつるみやがってって言われるんじゃけど、吉岡と遊ぶんやめた方がいいんかな?」

と、不安を溢した際にも翔太はフォローを入れてくれていた。


「コタは麻梨奈ちゃんのこと嫌い?」

「いや、嫌いじゃない」

「そうだよね。嫌いじゃないもんね。じゃあ、コタは麻梨奈ちゃんと遊ぶの嫌?」


 通学鞄を抱えてうつ向く弟に、彼は穏やかな声で肯定し続けた。母子家庭でせわしなく働く母に代わり、幸太の頭を撫でてやるのは兄の役目だった。


「俺は嫌じゃない。吉岡も俺に遊ぼうって言う」


 幸太も麻梨奈も互いを嫌ってなどいない。

しかし、中学生特有の冷やかしが、彼の心にトゲとなって刺さっていた。


「そうだもんね。コタたちがそうしたいなら、そのまま遊んだらいいんじゃないかな。誰かに許してもらう必要なんてないから、コタの思う通りにしてごらん」

「いいんかな?」

「麻梨奈ちゃんはコタの友達でしょ。誰と遊ぶかはコタの自由なんだから、麻梨奈ちゃんが嫌がってないなら一緒に遊んでおいで」

 

 そう言って背中を押してくれたと、幸太がモゴモゴしながら教えてくれたのは高校に上がってからのことだった。

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