第3話 模擬戦
学園の敷地内に設置された闘技場。
そこで俺たち生徒は、実技の授業として模擬戦を行っている。
ちょうど今、舞台の上では次戦の準備を始めているところで、観覧席からは生徒たちの声援が飛び交っている。
「よし、お前らー! 今日こそテオのやつに借りを返すぞー!」
味方を鼓舞するため、一人の生徒が闘技台の上で声を張り上げる。
それに続けて気合の声が発せられた。その数は四つ。
つまり最初の一人を合わせると五人の生徒がいることになる。
そして、その生徒の集団と対峙している一人の生徒――テオは、軽く肩を回して体をほぐしている。
五対一で行われることへの気負いは感じられず、普段通りで全く緊張している様子はない。
「みんなー! 多少やり過ぎてもムーちゃんが何とかしてくれるから、そこのかっこつけてる脳筋を遠慮なくやっちゃってー!」
「ム! ムムー!」
俺と模擬戦を見ていたミリアが、今日一番の熱量で声を張り上げる。応援するのは幼馴染であるテオ……ではなく、その対戦相手のチームだ。
そんないつも通りブレないミリアの横には小さな満月が浮かんでいる。
今は夜ではなく昼間だ。しかもその満月には目と口もあるし、おまけに周りには二本の手まで浮かんでいる。
この通常ではありえな現象。それを生み出しているのは鑑定で発覚したミリアのスキル――『タクティクスムーン』によるものだ。
タクティクスムーンの能力は、月の化身を召喚し、ミリアが指定した対象に治癒効果のある月光を浴びせることができるというシンプルな能力である。
けれど、月光による治癒効果は並みの魔術よりも高く、治癒の対象を複数にもできるのでとても強力なスキルだ。
「おい、ミリア。テオがすごい目で睨んでるぞ」
「う、相変わらず凶悪な目つきだね……」
「ム、ムム……」
「さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ……」
テオの
開始と同時に、テオの身体から
あふれ出たオーラは一度威圧するように鬼の顔を形どったあと、テオの全身を包み込み薄く身体に纏わりつく。
金色を纏うテオの姿は、頭に角の形をしたオーラが揺らめいてることもあって、まるで鬼人のようだ。
「――いくぞぉオラぁぁああ!!」
自身のスキル『
「く、来るなぁ! ――
対戦相手の一人が迫りくるテオとの間に、詠唱をしておいた自然魔術の火魔術で壁を作る。そして、それに合わせて前衛を担当する二人の生徒が、左右から
「――しゃらくせぇぞぉぉぉ!!」
「ひいぃ!」
「嘘だろっ!」
炎の壁をものともせず突き破ったテオは、後衛で魔術を準備していた生徒たちに襲い掛かかった。
この模擬戦ではけが人を出すのを防ぐため、攻撃によるダメージを一定以上肩代わりする魔道具が使用されており、魔道具が破裂した時点で戦闘不能とみなし
つまり、わりと遠慮なく相手に攻撃ができるというわけだ。
「オラッぁぁあ!」
「うわあぁ!」
「な、速すぎぐべっ!」
「は、話せばわかぁラァっ!」
テオの連撃で立て続けに三人が脱落し、破裂した魔道具から飛び散った魔力の
「あと二人ィぃっ!」
「「降参します!!」」
「――なあぁ! まだまだ俺はたりねぇぞッ!!」
残った生徒が同時に降参を叫ぶ。
二人の表情は恐怖に染まり、すでに戦意はへし折られている。
「あいつ完全に暴走状態だな」
「『
「夢に出てきそう……」と言いながら震えるミリアとムーちゃん。俺はそんなミリアたちに呆れて溜息を吐く。
「なら普段から挑発するなよ……」
「向こうが挑発するから乗ってるだけだよ! それに大丈夫!」
なにが大丈夫なのかは全くわからないが、ミリアは自信満々な様子でふんぞり返る。
「私がピンチのときは、アクセルがいつも守ってくれるしね!」
「それはどうかな~。俺がテオに昼めしで買収されるかもしれんぞ」
「ちょっと! 私たちの絆は昼食より軽いの!?」
「ム! ムムー!?」
そんな風に俺たちがやりとりをしていると、ちょうどテオが複数の教師に取り押さえられたことによりこの模擬戦は終了した。
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