第2話 スキル鑑定
「はあ……次はアクセルたちの番だってさ」
先に鑑定を受けていたクラスメイトが、待機していた俺たちを呼びに来た。
落ち込んだ様子から察するにスキルはなかったみたいだ。スキル持ちは一学年に一人出たらいいほうとも言われているし、やっぱり甘くはないな。
「よし行くか!」
「おうよ!」
「うん!」
俺の気合のこもった声に負けじと呼応したテオとミリアを視界に収め、言葉を続ける。
「すでに一人スキル持ちが出てる。けど、女神は素質のある者に好んでスキルを与えるって話だ」
「なら私は大丈夫だね!」
「俺はお前が一番心配だよ……」
「む、どういう意味かな」
「この前の模擬戦で逃げ回ってたのは誰だよ」
「ふん、魔術の構築が下手すぎてアクセルに泣きついてた脳筋さんには言われたくないね」
「また始まったよ…………待たせたら悪いから俺は行くぞ」
いつものように視線で火花を散らし合う二人を背に、俺は鑑定を受けるため用意された教室の一つに入室した。
◇ ◇ ◇
入室した教室の中は、いつものように机と椅子が並べられていた。
鑑定のために特殊な魔道具が置いてあるわけでもなく、いつもと変わらない教室。
唯一の違いは並べられた椅子の一つに黒髪の若い男が座っていることだけだ。
「おっ、君が最後の生徒かな?」
「はい。今日はよろしくお願いします」
「うんうん。若いのに礼儀正しいね。僕の名前はユーヤ・アケミ。魔術協会所属のスキル鑑定士をしている。えーっと君の名前は」
「アクセル・ライドマンです」
俺の名前を聞いたユーヤさんは、眼鏡を指で押し上げると手元の紙に目を移し、何やら文字を書き込んでいく。
「じゃあ、アクセル君。さっそく僕のスキルで君にスキルがあるか鑑定していくんだけど、守ってほしい注意点があるんだ」
そう言いながらユーヤさんは席から立ち上がり、俺に自分の隣の席に座るように促した。
てか、ユーヤさんはスキル持ちなのか。
魔道具を持ってないからどうやって鑑定するのかと思ってたけどすごいな。
スキルを鑑定できる魔道具の数は少ないし、歳も俺たちとそう変わらなく見えるけど、協会では貴重な人材なんだろうな。
俺が隣の席に座ったのを確認したユーヤさんは、簡単に自身のスキルの説明と注意点を話し始めた。
なんでもユーヤさんのスキルは『カンニング』というものらしい。
カンニングの効果は、射程範囲にいる対象が持つスキルの名前と効果を盗み見ることができるという強力なものだ。
けれど制約もあるようで、スキル発動中に鑑定する対象にこちらを少しでも見られると発動はキャンセルされるらしい。しかも、再度同じ対象を盗み見るには一日以上の時間を置く必要がある。
「要するに、スキルを発動したらアクセル君は僕を見てはいけないということだね」
「了解です。それにしてもカンニングって強力なスキルですね」
「まあね。僕としてはカンニングなんてしたことないから、自分のスキルを知ったときは不服だったんだけど、なかなか使えるよ」
「やっぱりスキルは夢があるな~。俺も自分の鑑定結果がより楽しみになりました!」
「自信ありげな表情だね。よし、ならさっそく鑑定しようか」
そう言ってユーヤさんは席に座り、紙を一枚机の上に置いた。
「じゃあ、僕の許可が出るまでアクセル君は念のため反対側を見ててくれ」
俺は多少の緊張を感じながらも身体ごと向きを変える。
しばらくして、後ろのユーヤさんが何やら筆を動かしているのがわかった。
静寂に包まれた教室に文字を刻む音だけが響く。
「――はい。もう見てもいいよー」
「……どうですか?」
「おめでとう! 君はスキル持ちだったよ」
「よっしゃーー!!!」
やったぜ! これで王都には行けそうだ!
でも、まだ浮かれてちゃだめだ。肝心なスキルの能力を聞いてないからな。
「良かったね、アクセル君。君のスキルの名は――『ブルーライド』だ」
「ユウヤさん、あざーっす! ちなみに『ブルーライド』ってどんなスキル何ですか?」
ユーヤさんは手元の紙に一度目を走らせ、俺のスキルの詳細を教えてくれる。
「速くなる」
「速くなる……そして!?」
「速くなる」
「…………えっと、もしかしてそれだけですか?」
「うん。カンニングで見た感じだと、使用者の速さに合わせて加速する度合いも変わるみたいだね。他に特殊な効果はなかったから、シンプルに速ければ速いほどより加速も強化されるんじゃないかな」
そのあと俺は、ユーヤさんにスキル発動のコツやスキルの詳細を協会に提出するときの注意点なんかを指導してもらった。
どれくらい速くなるかまでは実際にスキルを使ってみないと分からないらしく、後日教師の立会いのもとでスキルを発動するまではお預けのようだ。
こうして俺にとって人生初のスキル鑑定は、なんだか釈然としない形で終わった。
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