柚子の過去〜遥輝

親父は鍛治職人だった。鉄を熱して叩いて造形してオブジェを作ったりする職人。


仕事を1度だけ見に行ったことがある。正直いって超かっこいい、でも、仕事をしてない時の親父は、酔っ払いであり、暴力を振るう、そういう親父だった。

人前ではいい人を演じれる、でも家の中になると、豹変する様なそんな親父だった。


そんな親父だが、俺が産まれるまでは優しくて、怒ったりしなかったらしい。離婚する前までは俺の事をすごい大事にしてくれてたんだけど、職場でトラブってからだんだん、優しくしてくれなくなった。


離婚してからは、俺が母の方に顔が似てるだけで殴られたりした。酔っ払ってる時は話しかけちゃダメ。


今は分かるけど小学生の俺は、そんなこと分からなかったし、話しかけないと、学校生活が送れなかった。でも、途中で気づいた。学校に行かなかったら、親父と朝から顔も合わせなくてすむし、お金とかの要求をしなくていいから楽だって。


そこからは何年も親父と仲良く話したりはしてない。話しても、お前の母ちゃんはクズだとか、俺の事をゴミとか言ったりそんなもの。耐えれば終わる。


中学になって、1回顔を出した。その時の帰りに親父と運悪く対面しちゃって、怒られるかと思ったら、抱きしめられた。


最初は涙が出て、脱力してたけど、途中からおかしいって気づいた。


親父は俺を襲う気だった。すぐに蹴飛ばして、部屋に逃げ込んだ。母に似てたから襲いたくなった。


そう言われた時は、殺したかった。殺したくてたまらなかったから、家を出た。何時間か経って、朝方に帰った。親父は寝ていて、俺が、帰ったのに気づかなかった。


その日、俺の中で、何かが壊れた。もう親父に何を言われても何も感じなくなった。そうなったらもう楽だった。顔を合わせないように行動してってすれば、何も苦しいことはなくなった。


でもさっき、通学路で親父を見た時に、体の中から気持ち悪い何かが上がってきた。家に帰ったらあいつがいる。居間にいる。酒を飲んでいる。酔っ払っている。なにかしている。あそこにいる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。いる。


気持ち悪くてたまらなかった。


「ごめんね。こんな話しても、何にもならない。愛が、悲しむだけなのに。」

「ううん。話してくれて、嬉しい。」

「俺は、愛が家に誘ってくれた事が嬉しかった。あの家にいなくていい、あいつと会うリスクが減った。心の中でそう思ってしまった。ほんとにごめん。」

「いいの!柚子を誘ったのは私で、私が来て欲しかったから呼んだの!謝らなくていい!」

「俺は、愛に支えられてばっかだな。」

「そうだと嬉しいな。今日は勉強やめて休憩しよっか。」

「そうして欲しいな。ありがとう。」


今まで人に話したことの無いことを話した。親父がいなくなった訳でもないのに、少し胸が軽くなったことにびっくりした。


愛と一緒にテレビを見たり、本を読んだり、ダラダラしてその日はすごした。帰り際、愛が言った。


「いつでもうちに来て。待ってるから。」

「毎日来るよ。勉強もあるしね。」

「あ…、そうだったね。頑張ろうね。」


恥ずかしがっている愛も可愛かった。この時俺は叶いっこない恋に落ちていることに気づかなかった。

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