ゆずちゃん

開かれたドアから出てきたのは、


「愛ちゃん、この子がゆずちゃんね?」


菅原のお母さんだった。しかも俺の事ちゃん付。


「ごめんね。お母さんだれにでもちゃん付けなの。」


そういう事か…。でも、この人ドア自分から開けたよな?待ってたのか?


「愛ちゃん来るの遅いから、ドアの裏側にずっといなきゃ行けなかったのよ?」

「別に出迎えなんかしなくていいでしょ?勉強するだけなんだから。」

「もう。愛ちゃんはつれないんだから。」

「さ、時間が無駄になっちゃうから、入って?早く勉強しよ?」


そう促され、家の中に入る。外から見てもでかいと思ったが中から見ても空間が広く感じれて、開いた口が塞がらなかった。


勉強は菅原の部屋でやるみたいだ。キンチョーしないって言ったら嘘になります。


菅原の部屋は、The女の子の部屋みたいな部屋だった。クッションやぬいぐるみがあって、ピンクの色をしたものも少なくなかった。


「あんまりキョロキョロしないでよ。」


部屋を見てたら言われてしまった。


「ごめん。早速始めよ!何から教えてくれる?」

「その前に、昨日言ってた、お願いの話なんだけど…。」

「あぁ、何でもするぞ!」

「じゃあ…、その、柚子って呼んでいい?」

「うん、いいよ。そんなことでいいなら。」


実際俺も嬉しい。名前で呼ばれるなんて久しぶりかもな。そう思った時、菅原の次の一言が、きた。


「それでさ、柚子って呼び捨てで呼ぶから、柚子にも愛花って言ってほしい。」


その言葉を聞いて、俺は固まってしまった。


「あ…、ごめん!いきなり名前呼び捨てしろって言っても難しいよね、ごめん。勉強しよ!」

「あ、いや…。ごめん。」


"あいか"その名前を呼ぶこと。それがどれほど苦痛か知らない菅原は、俺が固まったのを、俺が引いたと捉えたようだ。


「ごめん。呼ぶのが嫌だったわけじゃないんだ。」

「そうなの?無理だったら言わなくてもいいんだよ?私は柚子って言わせてもらうけど…。」

「呼ばれるのは大丈夫。むしろ嬉しい。けど、名前を呼ぶのはまだもう少し待って欲しい。」


これは俺が母のことを受け入れれないとできない事だ。だから、まだ無理だ。ほんとに申し訳ない。


「早く勉強始めよ!こんなことしてる場合じゃないんでしょ?」

「そうだね、なんの教科からするの?」

「苦手科目は?」

「英語と、社会かな…。」

……………………

………………


「ふぅ。疲れた。」

「集中してたね。もう20時だよ。ご飯は?食べてく?」

「いや、さすがにそこまで世話になるのは…。」

「愛ちゃん!ここ開けて!」


そう言って部屋の扉の奥から菅原のお母さんの声が聞こえる。菅原が、ドアを開けると、大きなトレイを、両手で持っているお母さんがいた。


何となく分かってはいた。あのタイプのお母さんって、ご飯食べさせてくるタイプなんだよね。仕方ない、食べよう。食べてちゃんとお礼言おう。そう決めて、ご飯をいただくことにした。


「美味しい?私の手作りなの!」


晩御飯をいただけることは嬉しかった。いつもコンビニで弁当を買って食べるだけだったし、でも、聞いてない。


目の前で食べるところを見られるなんて、聞いてない。しかもめっちゃニコニコしてる。


正直恥ずかしい。


「愛ちゃんが、友達連れてくるの初めてなの!だから、張り切っちゃった。」


てへぺろと、舌を出しそうな勢いで言うお母さん。菅原は、それを見ながら頭を抱える。


「あの…、明日から毎日勉強を教えてもらう予定なんですけど…。」

「あらそうなの?愛ちゃん聞いてないわ!」

「言ってないもん。だってお母さんに教えたらなんかおせっかいするでしょ。」

「むぅ…。」

「まぁそういうことだから、毎日柚子と勉強するね。」

「分かりました。愛ちゃんは、頭がいいからゆずちゃんも頭良くなっちゃうわね。良いことだわ。」


そう言って部屋を出ていくお母さん。これは明日から大変そうだ。


帰りの支度をしてる時に菅原に話があるからもう少しだけいて欲しいと言われた。別に用事がある訳でもない俺はその場に留まることにした。

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