私に言って!

「で、話ってなんだ?」

「あのね、怒らないで聞いて欲しいんだけど。」

「うん。」

「柚子、困ってる事ない?困ってたり、辛かったりすること。」

「特にない気がするけどな…。」

「何か辛いことがあったら言ってね?」

「なんか前にも同じこと言われた気がするけどな。」

「言ったよ!柚子のリスカ痕を見たときに!でも、あの時は別のもうひとつのことも言った。生きてください!死なないでって。でもあれからもう半年経つけど、柚子の手首の痕は、薄くならないで逆にもっと濃ゆくなってる。だから、またリスカしてるのかなって思って。」

「リスカは死ぬことは無いから、してもいいかなって思ってしてるけど…。ダメだった?」

「ダメって言うか、なんのためにするの?」

「なんだろうな。めっちゃしたいってなる訳じゃなくて、…うーん、そう。気づいたらしてるみたいな感じかな。したら落ち着く。それもある。」

「そっか。リスカで死ぬことは無いのか。ほんとに死なない?」

「深く切らない限りは死ぬことはないと思う。」

「そっか。ならいいんだけど、なんか悩んでるとかじゃないんだね?」

「特に悩み事はないかな」

「じゃあ、これから辛くなったり、苦しくなったら教えて?そのために連絡先交換しよ?」

「そうだねって言いたいけど、俺携帯持ってないんだよね。」

「えぇ!持ってないの?…そっかぁ。…じゃあ!今度買いに行こ?」

「携帯って高いんじゃないか?そんなお金ないぞ。」

「いいのいいの!見に行くだけでもできるんだから。」

「わかった。見に行くだけ見に行こうか。いつ行く?」

「今週の土曜に行こ!」

「わかった。それじゃ。俺は帰るぞ。」

「うん。楽しかった。これから毎日見てあげるから、絶対高校合格しようね。」

「おう。じゃあな。」

「またね。」


そう言って初めての勉強会、俺からしたらお家デート?なのか?が終わった。


家に帰りついて、お風呂に入りながらふと考えてみる。俺に辛いことはあるのかな?特にないな。なんであんなことを聞いてくるんだろう。わかんないな。


ベッドに入り今日の出来事を思い出す。あ、そういえば、1つ悩んでることあったな。


"あいか"この言葉が言えないこと。でもこれは、菅原に言うべきなのか?分からない。そう考えたり、言ったらどうなるのか考えている間に寝てしまった。


その頃

菅原家 リビングにて


「まさか愛ちゃんがね。ゆずちゃんの事好きって言ってたけど、まさかね…。」




今日も、朝早くから起きてしまった。仕方がないからまた時間を潰す。親父が家を出るのを確認して、部屋を出る。リビングに入って床を見て溜息をついた。


床には一升瓶が割れた状態で放置されていた。朝から勉強の時間を潰してまで片付けるのは嫌だったが、片付けないと、夜に親父からの拳が飛んでくるから、仕方なく片付ける。


ふと片付けながら頭の中に菅原の言葉が蘇る。


『柚子、困ってる事ない?困ってたり、辛かったりすること。』

『何か辛いことがあったら言ってね?』


今まで見ないようにしていたこと、諦めていたこと、本当は気づいてる、困ってるし、辛いって、でもあともう少しの我慢でここから離れれる。あの高校に行ってしまえば寮に入れる。だから、大丈夫。


破片を拾い終わってから家を出た。考え事をしたせいで少し長く時間がかかってしまった。この分じゃ、もう勉強はできないだろう。周りがうるさくて集中が出来ないから。


なら、少しでも遅く登校しようと、コンビニの中で時間を潰す。時間を潰してる途中で、菅原を見つけた。菅原もこちらに気づいたのか、コンビニに入ってきた。


「一緒に行こ!」

「うん。いいよ。」


2人で楽しく会話をしながら通学路を歩く。一見楽しそうにしていて、俺は心の中で戸惑っていた。母のことを言うべきか否か。そして俺は決心した。

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