「生きてください」

俺が職員室で、担任と話をした帰り。時計の針が6を回った教室には誰もいない、そのはずだった。溜息をつきながら、教室に入る俺、それを待っていたのは彼女だった。菅原愛花。俺が学校に来る理由。


「どうしたの?溜息なんかついて。話聞くよ?」

「…いや、もう時間遅いから、また今度。」

「家どこら辺?」

「五丁目。」

「なら途中まで一緒だね。帰りながら話そ?」

「…いいよ。」


俺は何故今の時間まで教室にいたのかが気になるが、彼女と話しながら帰れるのは素直に嬉しいので、そんなことは気にしないようにした。


「…で?なにがあったの?」

「何って言われても…。ただ、先生との話がめんどくさかっただけだよ。」

「そっかぁ。…。」

「……。」

「……。」


気まずい沈黙が続く、俺はなんで教室に残っていたのか聞くことにした。


「あのさ…。」

「あの!」

「あ…。先いいよ。」

「いえ、お先にどうぞ。」

「なら、先に聞かせてもらうけど、あの時間まで教室で何してたの?」

「えっと…。それは、貴方を待ってました。」

「…え?俺を?なんで?」

「これから言うことを伝えたかったからです。」

ある訳ないが告白かと思って身構えてしまった。

「生きてください。」

「は?」

「辛いことがあっても、それを話したくなかったとしても、生きてください!」

「はぁ…?」

「もし辛くて死にたくなっても、死んじゃダメです!」

「おぅ…。」

「死んだらダメですからね?生きてくださいね?」

「…わかった。わかった。生きるから。」

「約束ですよ?」

「おぅ、約束な。」


こんな道のど真ん中で大声で言われると断れない。


まぁ、死にはしないんだから、リスカはいいよな。リスカができるならいいか、そう考えて、ちゃんと了承の意を示した。


俺が了承の意を示したのが嬉しかったのか笑顔で隣を歩いてた。ある程度そのまま歩いたら、曲がり角で


「私はここで曲がりますので、また明日ですね。」

「おぅ。明日な。」


そう言って別れた。明日は土曜日で学校は休みなんだが、明日どうやって会うというのだろう。それがおかしくて久しぶりに笑った。帰り着く前に笑い死ぬかと思うぐらい笑った。笑うことなんて久しぶりで、笑い方を忘れていた。


俺も笑えるということを思い出して、嬉しくなった。だから油断してた。今日は親父が日雇いのバイトの日だってことを。

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